自分だけの剣
__数日後。
街に買い物に行こうとして、お出かけの装いで玄関ホールへと来れば、リクハルド様が届け物を受け取っていた。
「あら、リクハルド様。どうされましたの?」
「頼んでいたものが届いたから、確認に来ているが……出かけるのか?」
お出かけ用の装いでいる私を、細長い長方形の箱を受け取ったリクハルド様がジッと見て聞いてくる。
「ええ、買い物に行こうと思いまして」
「一人で出かけるのか?」
「そうですけど……何か用事がありました?」
「用事があるというわけではないが……」
すると、軽い駆け足が聞こえて来た。振り向けば、シリル様が走ってやって来ている。
「ああ、来たか」
どうやら、届け物が来たからシリル様を呼びだしていたらしい。
「シリル。来たか。ほら、約束のものだ」
「本当に?」
嬉しそうにシリル様眼を大きくしている。玄関ホールの小さなテーブルの上で箱を開ければ、中には、普通の剣よりも刀身の短い剣が出てきた。
「まぁ」
シリル様の後ろから覗いていれば、いつの間に頼んでいたのかと思い、少しだけ驚いた。
「……僕の?」
「ああ。シリルに剣をやる、と約束をしていただろう。急いで、マクシミリアン伯爵領から持って来させるように頼んだ」
嬉しそうにシリル様が目を輝かせていると、リクハルド様が剣をシリル様の手に渡した。
「俺が子供の時に使っていたものを少し直させた。これをやろう」
「……お父様の?」
「なんだ。俺の使い古しは嫌か? 綺麗に研ぎ直したし問題ないと思うが?」
ブンブンと首を左右に振るシリル様。
嫌でシリル様は聞いたのではないと思う。シリル様の感情が薄いのはリクハルド様のせいでもある気がしてきた。思わず頭を抱えてしまう。
でも、嬉しそうなシリル様を見ると、リクハルド様が大好きなのがわかる。
「シリル様用の剣ですわ。良かったですわね」
「僕だけの……」
両手で握りしめてギュッと抱えているシリル様を見ると、本当に嬉しいのだろう。満面の笑みではないのは、上手く表情がまだ作れないからだと思うけど、シリル様は喜んでいる。
「使い方も教えてやろう。今朝の読書の時間は終わりか?」
「お父様が?」
「むやみやたらに振り回すものではないからな……そろそろ護身術も覚え始める時期にはちょうどいい」
そう言って、リクハルド様がシリル様を抱き上げた。
「では、私は少し出かけてきますね」
にこりとしてシリル様の頭を撫でて言うと、可愛らしい顔でシリル様が首を傾げた。
「出かけるんですか?」
「はい。街に買い物に行こうかと……美味しそうなケーキでも買ってきますね」
「あ、あの……」
「はい。何でしょう?」
「……キーラ様、いってらっしゃいませ」
「はい。行ってきますわ」
シリル様に手を振って去ろうとすると、軽く手を振り返してくれる。可愛い。婚約破棄しても、シリル様にだけは会わせてもらいたい。
そうして、馬車に乗って街に買い物へと向かった。




