不機嫌な婚約者と古い手紙
ルミエルを医務室で手当てをしてもらったあとには、ウィルオール殿下が休んでいる控え室に集まっていた。
「リクハルド……その顔を何とかしてくれないか?」
足を組んで肘掛けに肘をついている自分を、ウィルオール殿下がずっと凝視していた。そして、我慢ならずにとうとう言った。
「顔は変えられません」
「顔は変えられなくとも、その不機嫌な様子は何とかしてくれ。俺は殿下だぞ」
「知ってますよ。それが何か?」
「もういい……それよりも、セアラの手紙が見つかった。先ほど、ルミエルから見せられたが……なぜ、今ごろ見つかったのか……」
不思議そうな顔でウィルオール殿下が首を傾げる。
突然発見された、セアラが生前、友人であったルミエルに出した手紙。それが見つかったと、ルミエルから連絡があった。
「ルミエル。今まで、本当に気付かなかったのか?」
「申し訳ございません。最近、執事が古い手紙などを片付けていた時に、セアラからの手紙が出てきたと言って渡してきたのです。私が、手紙が届いた時は王都にいたので、すぐに渡せなかったようで……」
「それで、今ごろ見つかってリクハルドに連絡をしたわけか……」
それで、ウィルオール殿下のもとへと、ルミエルも交えて集まっていた。
「……もしかしたら、キーラのおかげかもしれません」
「キーラ嬢の? なぜだ? 彼女は、セアラの件には関係ないだろう?」
「セアラのことには関係なくても、あのルイーズを追い出したのは、キーラです」
「そう言えば、ルイーズが家庭教師であるための魔法の契約書が燃えて消えたと言ったな……」
「あれは、ルイーズがシリルの家庭教師であるための効果が顕著にみられていました。おかげで追い出すこともできずに……おそらく、俺たちのやっていることも邪魔されていたと、思います」
「マクシミリアン伯爵家に、ルイーズをいさせるためにか……」
ウィルオール殿下の言葉に頷いた。
キーラがルイーズが家庭教師である魔法の契約書を無効にするまで気付かなかった。だが、このタイミングでセアラの手紙が見つかった。偶然なのかどうかの区別がつかない。
だけど、そう思える。
きっかけは、間違いなくキーラだと。
マクシミリアン伯爵家で変わったことと言えば、キーラと婚約を結んで彼女を邸に招いたこと。そして、ルイーズと決闘して彼女を魔法の契約書をもって追い出した。
「もしかしたら、シリルの父親を証明されないように魔法の契約書が発動していたのかもしれません。シリルの父親の生家に引き取られれば、ルイーズが家庭教師であることが困難になる恐れがあったのだと……今はそう思います」
「ふむ……」とウィルオール殿下が頷いた。
「それで、機嫌が悪い理由はなんだ? 先ほど、キーラのところに行ったのだろう? 彼女はどうした?」
「別に」
「……キーラの元婚約者であるヘイスティング侯爵家のジェレミーが来たと伝えたが……どうだったのだ?」
「相変わらず、傲慢そのものでしたよ」
ジェレミーが夜会に来たと報告があり、キーラが心配になり彼女を探すと、迫られている現場に出くわした。
思い出せば、また腹立たしいものがあった。
「しかし、キーラ・ナイトミュラーか……少し気になるな。シリルも懐いているのだろう?」
「むしろ、シリル目当てでマクシミリアン伯爵邸での滞在を楽しんでいます」
お茶会をすれば、シリルしか目に入ってないキーラを思い出せば、部屋中に冷気が漂ってきた。
「リクハルド。冷気が漏れている。怒っているのか?」
「……氷の魔法が得意なもので」
ジェレミーがキーラに手を出そうとしていた。キーラに背を押されるまま、彼女を置いてきたが心配になる。それと同時に苛ついていた。
「……悪いが、これで失礼させていただきます」
「そうしてくれ。リクハルドがいると部屋が寒い」
そう言って、席を立てば、ウィルオール殿下が呆れたように足を組みなおして寛いだ。
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