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いつもと違う朝


__翌朝。


シリル様は私のベッドで眠っていたことに驚いて緊張していた。そして、着替えと朝食のために部屋を出ていった。


部屋まで送りたかったのに、シリル様が遠慮して一人で行ってしまった。


食堂へと朝食に来れば、リクハルド様もまだいない。


「シリル様を迎えに行こうかしら……」


いつもの朝食はどんな風だったのだろうか。すると、食堂にリクハルド様がやって来た。昨夜の出来事に顔が熱っぽくなる。


「リ、リクハルド様っ……お、おはようございま、……す?」


リクハルド様に挨拶をしようとすれば、リクハルド様が入りにくそうにしているシリル様とやって来た。


「ほら、入りなさい」


朝から可愛い! リクハルド様のことが頭からすべて吹っ飛んだ。


照れたように頬を紅潮させて不安気にリクハルド様にしがみついているシリル様に、きゅん死する。


「シリル様! 今、お迎えに行きたいと思ってました! お会いできて光栄ですわ」

「キーラ様……おはようございます」

「はい。おはようございます。シリル様」


興奮してシリル様に駆け寄って目線を合わせて言うと、ますます頬を染めて挨拶をしてくれる。


「マクシミリアン伯爵邸に来てよかったです」


何度も婚約破棄をされて良かった。おかげで、マクシミリアン伯爵邸に来られたのだ。


シリル様に感動して目尻が潤むと、リクハルド様が無表情のままでため息を吐いた。


「シリル。座ろう。ケヴィン。シリルの朝食を……」

「は、はい! ……あの……いつもと違うものでよろしいでしょうか?」

「ああ、子供が食べやすいものを出してやれ」


リクハルド様に促されて、スクエアテーブルの私の向かいにシリル様が座る。


「シリル様。私の隣でもかまいませんわよ」

「ということだ。明日は、ラウンドテーブルに準備しろ」


目の前に可愛いシリル様がいる。目が合うとにこりと笑顔を見せたら、シリル様が緊張して眼を逸らされた。それでも、可愛いことこの上ない。


「美味しいですか? シリル様」

「は、はい。こんなの初めてです」

「まぁ……これからは、いつでも食べられますよ」


初めて父親であるリクハルド様との食事に緊張を見せるが、それでも一生懸命に子供らしくシリル様は食事を進めていた。


「そう言えば、クズ女っ……ではなくて、ルイーズ様はどうしましたか?」

「そ、それが……手当てをしようと邸に運び入れようとしましたが、消火に手を取られて手が足りず……なぜか、担架も壊れてまして……そのまま、馬車に乗せて病院へと運びました」


なぜか、マクシミリアン伯爵邸に運び入れられなかったという。それは、ルイーズ様が私に負けたからだ。魔法の契約書は絶対なのだ。そして、魔法の契約書のせいで、マクシミリアン伯爵邸に入れなかったルイーズ様。病院でよく寝たことだろう。


「では、メイドか誰かにルイーズの荷物を持って行ってやれ。ここには、二度と帰ってこなくていい」

「かしこまりました」


リクハルド様が淡々と言い、ケヴィンがお辞儀した。

ルイーズ様が二度と帰ってこないとわかるとシリル様はホッとしている。ずっと辛かったのだろう。


「リクハルド様。シリル様を迎えに行って下さったのですね」

「今朝は、邪魔が入らなかったからな」


シリル様と目が合えばにこりと笑顔を見せたら、可愛く頬を染めてミルクを飲み始めていた。



食事が終わり、シリル様は部屋へと帰って行った。私はリクハルド様をお見送りするために、玄関まで来れば、リクハルド様が庭の焼けた跡地を眺めていた。


「リクハルド様。すみません。邸を焼いてしまって……」

「後悔しているのか?」

「いいえ、まったく」

「そうだろうな」


ケロッとして言うと、リクハルド様が納得したように言う。


「……今朝は、邪魔が入らなかったと言っただろう」

「シリル様をお迎えに来て下さったことですか?」

「そうだ。今までは、朝食もルイーズが管理していたから、シリルを誘いに行けなかった」

「誘いに行けなかった? シリル様を!?」

「魔法の契約書のせいだろうな……どうも、朝食を誘いに行こうとすると、突然呼び出されたり、何かと邪魔が入ったのだ。ルイーズが家庭教師であるかぎり、彼女の意見が魔法の契約書の優先順位だったのだろう」

「魔法の契約書の効果がそこまで……」


そして、魔法の契約書に添って私がルイーズ様を決闘で負かしたから、彼女はマクシミリアン伯爵邸に入れなかった。ケヴィンがなぜか、ルイーズ様を運べなかったと言っていたのは、こういうことだろう。


「ふふふ……では、ルイーズ様は二度とシリル様に近づけませんわね」


思わず、微笑むように笑うとリクハルド様も安堵していた。


「そう言えば、リクハルド様はルイーズ様を辞めさせたかったですの?」


昨夜は突然にキスをされて、慌てて飛び出していったから聞けなかったが……リクハルド様はルイーズ様に関心一つ感じない。むしろ嫌悪感すらあるように思えた。


「もしかして、シリル様がルイーズ様の意地悪されていることを知ってましたか? 侮蔑されていることも……」

「ルイーズがシリルを……? シリルに、特別な好意は持ってないだろうと思っていたが……」

「気づいてませんでしたか……では、どうして辞めさせたかったのですか?」

「……朝、仕事に行くときに見ただろう」

「何がですか? ルイーズ様が妻のようにリクハルド様に外套マントをかけて寄り添おうとしたことですか?」

「そこまで言わなくていい」


顔を俯いたままでムッとしたリクハルド様が力いっぱい言う。


「まさか……アレが嫌で?」

「当たり前だ。なぜ、婚約者でも妻でもない女に近づかれなければならん。不愉快だった」


朝の出来事だけはないのだろう。普段から、リクハルド様に近づいていたような気がする。

お胸の出たドレスを見繕っていたのも、靡かないリクハルド様を誘惑するためだ。


確かに、思い出せばリクハルド様は不愉快そうだった気もする。外套マントをかけたルイーズ様を手で払って私のところに来て、なぜか前触れのなく頬にキスをしたのだ。

思い出すとまた恥ずかしい。何度も婚約をしてきたけど、一度もそんな関係になった相手はいなかった。そして、現在は20歳になっている。


「キーラ。人の話を聞いているのか?」

「聞いてますけど……」


なぜ、睨みますか?


ツンとした顔でリクハルド様に睨まれている。シリル様も無表情な子供だけど、こっちもよくわからない。だけど……


「魔法の契約書が燃えてよかったですね」

「おかげで契約は無効になった。これで、ルイーズは、二度とシリルの家庭教師になれない」


思わず笑顔で言う。


「ここは、何か別のものを建てよう」

「せめて、弁償します。どんないきさつがあれ、私が焼いてしまいましたので……」

「気にしなくていい。では、仕事に行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」


弁償すると言うのに、リクハルド様は何も要求しないで、颯爽と馬車に乗って仕事へと行ってしまった。




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