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出生の秘密


リクハルド様の前婚約者セアラ・シンクレア子爵令嬢は極秘出産していた。


「リクハルド様は、その……気付かなかったのですか……?」

「その頃は、俺は王都の城に勤めていた。騎士団にいたのだ。だから、セアラとはほとんど会えなかった」


その頃は、前伯爵が存命でリクハルド様はまだ伯爵位を継いでなかった。だから、騎士団に勤めていたのだと言う。


「……ある日、王都に知らせが届いた。セアラが事故にあったと……事故にすぐに気づいて駆け付けられたのは、子供が泣いていたからだ。第一発見者がそう言っていた」

「まさか……シリル様もいたのですか!?」

「いた。シリルの泣き声で事故にすぐに気づいて見つかったのだ。……シリルは、母親が死んでいくのを全部見ていたんだよ。だから……シリルは感情が薄いのだと思っていた」


感情が薄い。そうかもしれない。シリル様は子供なのに、表情が上手く作れていない。


「事故で死んだのは、セアラとその相手だ。それなのに、シリルをどちらの家も引き取らなかった」

「自分たちの孫なのにですか!?」

「セアラの出産を知らなかったシンクレア子爵は、信じてなかった。今は、娘が他界して病んでしまっている。シリルの存在が、余計に気持ちが追い付かなかったのだろう」

「男のほうは……」

「貴族だったが……婚約者がいるような令嬢の子供が息子の子供のわけがない、と言って、引き取りを拒否だ。シリルの存在を知らなかったから、疑っていたのだろう。俺の子供だとも疑われていた。……そのうえ、シリルがいると二男が跡継ぎになれないから、何としても引き取りたくなかったのだろう。それも、結婚前の子供を……」


誰もシリル様を引き取らなかった。一歳になるかどうかの子供は、居場所を一瞬でなくしてしまったのだ。まるで、隠される子供だ。


「それで、リクハルド様が?」


シリル様に胸を痛めていると、リクハルド様がそっとベッドサイドに腰を下ろした。


「……可哀想だと思ったよ」


だから、シリル様をリクハルド様が自分の子供だと言って引き取った。でも、前マクシミリアン伯爵であったお父上は認めなかったという。


「父上は、シリルを引き取ることに反対だった。だから、父上は条件をだしたのだ。まともで優秀な人間になるために、家庭教師を父上が決めると……魔法の契約書まで作ってな」

「まさか……それで、ルイーズ様がやってきたのですか!?」

「ルイーズは、首席卒業をするくらいだからな。そして、魔法の契約書通り、ルイーズがシリル専属の家庭教師となった。俺が理由を付けて勝手に変えないように、魔法の契約書を作って、ルイーズに一任したのだ」


だから、誰もルイーズ様に逆らえなかった。


でも、ルイーズ様の目的はリクハルド様だったと思う。彼を目当てに来たが、リクハルド様はルイーズ様に靡かない。でも、魔法の契約書があるから、ルイーズ様を解雇できないでいた。


「……邸がシリル様の現状に気付かなかったのは……」

「魔法の契約書のせいだろう。契約を続行させるために、何かしらの力が、シリルとルイーズの周りに働いていたはずだ」


違和感はあったと思う。でも、違和感を違和感と思わなかったのだ。魔法の契約書のせいで!


前マクシミリアン伯爵様が他界した後も、魔法の契約書はずっと実行されていたのだ。


「だが、やっと魔法の契約書が無効になった……」

「ま、まさか……私が、魔法の契約書を用いてルイーズ様と決闘をしたせいで……」

「キーラがルイーズと決闘をするとは思わなかった。俺では、魔法の契約書を無効にできないでいた。存在を知っているからだ。だから、誰にも頼めなかった。頼んだ相手は知らなくとも、俺が頼めば魔法の契約書は無効にならない。例えば、今回のようなことを俺が誰かに頼んでも、キーラと同じ結果にはならないのだ」


そうでしょう。魔法の契約書は、契約を実行するためのもので、何かしらの余波があったはずだ。だから、契約を無効にしたくてリクハルド様が誰かにたのんで、私と同じことをしても、無効にはならない。


私が何も知らず、ルイーズ様をやっつけることだけを考えていたから、魔法の契約書は発動して、前マクシミリアン伯爵様が作った魔法の契約書を終わらせたのだ。


「シリルが、ルイーズは嫌だと言った。願いを叶えてやりたい。シリルが初めて自分から、気持ちを打ち明けたのだ。どうするかと思ったが……」

「私が先に追い出してしまったのですね……」

「そうだ。だが、これで、やっとルイーズには出て行ってもらえる」


そう言って、リクハルド様が私の手を取った。


「キーラのおかげだ。感謝する」

「はい……これで、リクハルド様もシリル様のお願いを聞けますね。シリル様はきっとお喜びになりますよ」


ほんの少しだけリクハルド様の目尻が下がった。ああ、きっと、安堵しているのだ。


クズ女ルイーズ様をやっつけて良かった。心からそう思えた。


すると、リクハルド様が私の指にそっと唇を落とした。突然のことに驚いた。


「……っ!? リクハルド様!?」

「シリルの願いは叶えてやれたが、キーラのおかげだ。君には、代わりに何かしよう。何でも言ってくれ」


本当は、リクハルド様自身でシリル様のお願いを聞いてあげかっただろうに……。でも、出来なかった。そんな切ない想いを感じた。


「それは、ご褒美をくれるということですか?」

「そうだ」

「うーん……でも、私に欲しい物はないんですよね。お金はいっぱい持ってますし……」

「では、思いついたら言ってくれ。何でも叶える」


そう言って、リクハルド様が立ち上がった。婚約破棄を一度だけ無効にしてもらうか……でも、それだと、リクハルド様に迷惑どころか、シリル様の未来にくるかもしれない母親を見逃してしまう気がする。


流石にそれは自分勝手だわ。


「キーラ……」

「はい」


うーんと悩んでいた顔で振り向けば、リクハルド様の唇が触れた。


「あ、あの……」


初めてのキスに動揺している。ほんの少し唇と唇が触れただけなのに。思わず、唇を両手で隠した。


「約束だ」

「約束、ですか?」

「そうだ」


真顔でリクハルド様が言う。一気に羞恥が押し寄せてきた。


「お、おやすみなさいませ!!」


約束のキス。そう言いたいのだろうけど、初めてのことに私はそのままリクハルド様の部屋から飛び出した。





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