道端で
「今はコテージに早く戻りましょう。私も歩き続けて疲れたのでお茶が飲みたいですわ」
「そうだ、レジェスさん、クローセさんにはどう説明しているんだ?」
「彼女にはラクレーム様とグリオット様が合流して、二人だけで探索していると言ってあります。余計な心配はしないように」
「それは良かった。なら、私達も何事も無かったかのように戻らないとな」
俺は自分の服に盗賊達の返り血が付いていないかを確認する。変な汚れが付いていたなら、勘ぐられてしまうかもしれない。
「レジェスさん、背中に変な汚れが無いか見てくれないか」
「分かりました」
背中の汚れ確認をレジェスさんに頼むと彼女は快く承諾した。
「これは泥汚れの他に少々血が飛んでしまっていますね。いかがいたしましょう」
「泥汚れはどうとでも言い訳出来るが、血はな」
「血の汚れはそう見るものではありませんし、泥汚れに紛れて気づかない可能性もあります」
「その可能性にかけるか」
洗う選択も考えたが、その場合、服を洗うのはクローセさんだ。俺のメイドである以上、俺の衣類は優先して対処するのが彼女の仕事であり、レジェスに譲るのは彼女の仕事を奪うことになる。それはそれで要らぬ疑惑を彼女に与えてしまうだろう。
「お洋服の汚れでしたら……なんとかなりません?」
ラクレームが抱えていた本を両手に持ち直して悪魔に聞いていた。
「なんとかって魔法でですか?」
「当たり前です。悪魔は魔法が得意でしょ。服を綺麗にする魔法は使えませんの?」
「そんな魔法は使ったことも、考えたこともありませんよ」
「では、今、考えてくださいな」
「……ご命令で?」
「主の命令ですわ」
「……分かりましたよ。やってみましょう」
悪魔は本の姿のまま浮かび上がると俺の周辺を飛び始める。
「汚れか。気にしたことないんだよな」
「出来そうか?」
「出来そうか出来ないかじゃなくて、やるしかないんだよ。服を綺麗にする魔法なんて使えないが、結果として服が綺麗になればいいんだよな」
「それでいいと思う」
「なら、服を脱げ」
「は?」
「洗うんだよ。この場で」
「いや、しかし、ここでか?」
俺は視線をラクレームとレジェスに向けた。彼女達の前で服を脱ぐというのは、さすがに羞恥心がある。
「別に全裸になれって言ってないだろ。上着とズボンだけだろ」
「それでもだ。外で下着だけの姿を他人に見られるなど」
「私は気にしませんわよ。グリオット様の裸については見慣れていますし」
拒否している会話の最中に怖い言葉を言いながらラクレームが入ってきた。
「男性の私が気にするんだよ。白昼堂々、道の真ん中で服を脱ぐ貴族などいない」
「唯一無二でいいではありませんか。のちに話のネタにもなりますわ」
「苦笑される笑い話と分かっていてネタになど出来るか」
俺の周りをぐるぐると回っていた本が顔の前で止まる。
「分かったよ。無理やり服を脱がしてもいいが、後でご主人に怒られたくはない。一旦、森へ戻って茂みの中で服を脱げ。俺以外が見てない状態ならいいだろう」
「外で服を脱ぐことには変わりはないが……それが妥協案か。少し待っていてくれ」
これしかないと諦めて、俺は悪魔の本と一緒に一度森の中へと戻ることにした。