本
ラクレームを連れ立って森から出るとレジェスさんが不安げな顔で待ち構えていた。事情を聞いていたとしても自分が身近に居ない状況での出来事は彼女としてはかなり不安だっただろう。本当なら近くでラクレームを守っていたかったはずだが、ラクレームに説得されて泣く泣く俺への伝言役を引き受けたのだろう。
「ラクレーム様、グリオット様、ご無事で!」
「怪我一つ無いのだから、そんな顔はしないでいいわよ。レジェス」
「本当ですか。嘘をついて痛い箇所を隠していたりしませんよね!」
「大丈夫ですわよ」
レジェスさんはラクレームの無事を確かめるためにとラクレームの体を下から上へと見ている。
ラクレームに本当に怪我無いことを確認し終えるとレジェスさんは俺の方を向いて深々と頭を下げた。
「グリオット様、今回の件、大変申し訳ございませんでした。本来ならば私が止めるべき件でしたのに、止めきることが出来ずに……」
「レジェスさんが謝ることではない。責任ついては全てラクレームにある」
「その件につきましてもラクレーム様にはどうか寛大なご処置を。グリオット様を危険な目に合わせてしまったかと思いますが、全てラクレーム様がグリオット様を思う気持ちからでして」
「分かってる。責任はラクレームにあるが、全て許した。怒っても大して反省しそうにないしな」
「それは酷いですわ、グリオット様。私もちゃんと反省します」
「知ってる。冗談だ」
俺とラクレームのやり取りから関係が悪くなっていないことを察したレジェスさんの顔が和らいだ。
そしてレジェスさんの視線が俺達の背後に立っている存在に向く。
儀式の本が浮いている。
「あのそちらは……」
「こっちは気しないでくれ。人を操ったり、そこの婚約者殿に真っ二つに斬られたりといろいろ疲れたので休んでいるだけだ」
本からは悪魔の声が聞こえてくる。
ラクレームとのやり取りが終わった後、悪魔はいつの間にか本の中に戻っていた。その状態でも動くことや会話が出来るようでラクレームの後を付いてきていた。
「レジェスさんはこいつのことは知っていたんだな」
「今回の計画を聞いたときにラクレーム様から紹介をされました。その際は我が家のメイドの姿をしておりました」
「ご主人に屋敷にいるならメイド姿の方が目立たないと言われたからな。私は別に何でもよかった。姿に特にこだわりはない」
「目立たないというのなら鳥とか動物になってくれたほうがいいんだが」
「ご主人が言うならそうしよう」
悪魔は本の姿のまま、ラクレームの手元に来たのでラクレームはそのまま脇に抱えた。