支える
「本当ですの? グリオット様からの好意については、昔から今まで余り感じたことがありませんでしたので」
「そんなことはないだろう」
「グリオット様、私が言っている好意は男女の好意ですわよ」
「分かっている」
「分かってないですわ」
「……そうなのか?」
昔から鈍感だと言われ続けた人生だったので、色恋について分かってないと言われると不安になる。
十代前半の少女に指摘されるのは情けなくもある。
「まあいいですわ。好意が無いのは私がまだ子供だからでしょうし」
確かに今、ラクレームに向けている好意はどう転んでも恋愛感情にはならない。というかラクレームは当然としてクローセさんですら、まだまだ子供という感覚だ。自分の娘、孫達がその年齢だった頃の姿が思い返されるので恋愛感情を持つのは難しい。
現状、俺としてはそんなことをしている余裕がないのも原因だ。
「それで今回の騒動を起こした結果……納得はしたのか」
「結果をお聞きになりたいですか?」
「当然だろ。巻き込まれたんだ。聞く権利はある」
「巻き込まれたと言いますけれども、グリオット様は当事者なのですよ」
「……当事者ね。分かった。それならそれで当事者として結果を聞く権利はあるよな」
「もう口が上手いですわね。グリオット様」
「ラクレームほどではない。 で、納得したのか」
「流されませんわね」
「この程度で話を流しはしない」
ラクレームは覚悟を決めたようで、深く息を吐いた。
「納得はしました。改めて私の婚約者、そして将来の夫になる男性はグリオット様だと」
「安心した。納得した理由は何だったんだ? 剣の腕前か?」
剣術を認められるのが一番嬉しいので誘導するように聞いてしまう。
「剣の腕前の上手い下手は分かりませんわ」
それはそうだと納得しつつ、少し肩を落とす。
「ただお強いことは分かりました。悪魔を斬り伏せた一撃はきっと凄かったのでしょう。お強いことも納得した理由ですわよ。後は推理力。全て私が仕組んだことだと見抜いた推理は見事でしたわ。でも、一番はグリオット様の精神、志とでもいいましょうか。それが理由ですわ」
「志? そんなに大層なモノは語った覚えはないぞ」
「不利な状況だというのに自分の意思をしっかりと持ち、ぶれることがない心。それ故に辿り着くことが出来た活路。盗賊の頭目とのやり取りも、悪魔とのやり取りも一步でも引いていたら、どうなっていたのか……少なくとも好転はしていないでしょう。この意思の強さは一緒に生きていくうえで、とても頼りになると思いましたの。この方とならばこの後訪れるかもしれない如何なる困難も超えていけるでしょうと」
ラクレームは顔を上げて俺と視線を合わせると着ているスカートの裾を持ち、深々とお辞儀をする。
「この度は私の身勝手な都合からグリオット様には大変ご迷惑をおかけいたしました。深く謝罪をいたします。今回の件で責を負わせるというのなら、私だけにお願いいたします。家はもちろん、レジェスも私の我儘に巻き込まれただけです。どうかお聞き届けを」
「……」
俺の返事を待ち、ラクレームは頭を上げない。
「許す。この件について誰にも責は負わせない。というか口外無用だ。私とラクレーム、後はおそらく事情を知っているレジェスさんだけの胸のうちに秘めておこう」
「ご寛大な心遣いありがとうございます」
「何を言う。私がこのように言うだろうということを既に見越しているんだろう」
「……そこも見抜かれますか」
ラクレームは顔を上げると今まで見たことがない真剣な眼差しで俺を見る。
「私はグリオット様が婚約者で、とても光栄で幸福ですわ」
「……俺は正直に言うと少々不安だ。これからはラクレームに認められたという志を持って生きていかなくてはいけないからな。志が無くなってしまうことがあれば、ラクレームに見捨てられてしまうだろうし」
「そのようなことにならないように私が傍でお支えしますわ」