納得すること
「聞きたいことの最後だ。いいか?」
「なんでも来いですわ」
ラクレームは何故か自信満々な様子で誇らしげにしている。
「これほどの手間暇をかけて、お前は何がしたかったんだ?」
「グリオット様を確かめたかったのですわ」
「私を確かめる? どういうことだ?」
「私が以前までお慕いしていたグリオット様は公爵家のプライドを優先して実利を得ない方、プライドが高いために物事の足元が見えずによく失敗しておられましたわ。大抵の失敗は公爵家の権力で押し切っていましたけど。そういうところなどが情けなくて好きでしたの」
以前にも似たようなグリオットに対する評価を聞いたが、貶しているようにしか聞こえない。
「貴族同士の婚姻である以上、私個人の感情はさほど重要ではありませんわ。それでも私は以前のグリオット様に対して納得していましたの。この方が将来の夫になる方だと。それなりに楽しい日々が送れそうだと妄想していましたわ。ですが、久しぶりに出会ったグリオット様は変わっておられましたわ」
以前とは違うグリオットになっていることに気付かれ、疑問を抱かれていたことに冷や汗をかく。
「グリオット様といえど成長はするものでしょうし、多少の変化はあって当然でしょう。ですが、あまりにも急に変わりすぎて……別人が身代わりをしているのではと疑ったほどですわ」
「そんなわけはないだろう」
「身代わりの別人でないことは調べて、すぐに分かりました。顔は似せられても、体にあるホクロの位置などは同じには出来ませんものね」
「は? ホクロ? 何を言っているんだ?」
「昔、一緒に水遊びへ行った際に見たグリオット様の体の特徴を覚えていましたの。先日確認したところ、同じ位置にホクロがありましたわ」
いったい何時確認したのかと聞くのが怖い。
「変わってしまったグリオット様は以前まで私がお慕いして、夫になると納得していた方では無くなりました。今のグリオット様は大変思慮深く、物事を見極め、貴族社会の交流についても上手に対応なさる方。一般的な評価でなら今のグリオット様の方が良いとされるのでしょうね。私も別に性格の悪い方が好きというわけではありません。性格は良い方がいいですわ」
「……でも、納得はしていなかったと」
「ええ、一度納得していたことが無くなったのですから、もう一度納得する必要がありましたわ。これは私にとって譲れない大事な一線ですの。どのような理不尽な将来が待っていようとも、私が納得して進んだ道の先にあるのなら受け入れる覚悟がありますわ。ですから、どのような理由でも良いので納得したかったのですわ」
「年下の言葉とは思えんな。納得するということに対する覚悟が決まっている。どのような日々を送れば、そのようになるのか興味が湧くよ」
「あらあら、興味を持ってくださるのは嬉しいですわ。好意も持ってくださるとさらに嬉しいですわ」
「好意ならもう十分に持っている」
ラクレームという人物の面白さに対する好意がかなり高い。