恐ろしい子……
「他に聞きたいことは?」
「盗賊達はどう用意した?」
「彼らは本当の盗賊ですわ。今回の旅行の準備をする際に何度か、この地方を訪れた話はしましたわよね。その際に襲われましたが、レジェスとこちらの悪魔が撃退しましたわ。襲ってきた理由を聞くと貴族の娘がろくに護衛も付けずに田舎に来ていることを聞きつけて、誘拐しに来たそうですの。偶然なのか、意図的に流された噂なのかは分かりませんが、せっかくなので盗賊の方々については有効活用させていただきました」
「有効活用……盗賊達の命と意識を奪ってか」
「ええ、盗賊の方々は貴族を襲った罪として死刑は必定。レジェスに余罪を調べさせましたが、他方で多くの犯罪を行っていたようです。詳しい犯罪の内容はレジェスが教えてくれませんでしたけど、誘拐はまだマシな方だったと言っていましたわ。日々安寧を願い暮らしている人達を襲っている方々です。同情は必要ありませんわ」
「同情などしていない」
盗賊の奴らの体に染み付いていた血の臭いは拭いきれないキツさがあった。どれほどの横暴を働いてきたのかは言われなくても想像出来る。
「ラクレームは平気だったのか知りたかっただけだ。直接、手を下したわけではないといえ、ラクレームの意思で盗賊達が死んだことに……暗い感情を感じていないかと」
「心配してくださってありがとうございます、グリオット様」
ラクレームは深々と頭を下げる。
「ですが、ご安心ください。私は平気ですわ。自分に悪意を向けた相手に対して優しく出来るほどの聖女ではありませんから」
「優しくしろと言ったわけではないんだが……平気ならいい」
満足そうに笑みを浮かべるラクレームに今回の件について怒ろうと思っていた気持ちが揺らぐ。
「盗賊達は悪魔が操っていたんだな」
ラクレームではなく、悪魔に確認する。
「そうだ。そちら様の命令でな。人を操るのは苦手なもんで、複数人は最後までぎこちなかったが、二人くらいになると割と出来ていた自負がある」
「道理で人数が少なくなる度に動きが良くなっていたわけだ」
「森で俺がラクレームを見つけた時には既に化けていたんだな」
続いての質問には悪魔ではなく、ラクレームが答えた。
「はい、グリオット様から危険なことをはするなと言われておりましたので。計画の中で剣を使って私を脅す場面を用意していた関係上、人質役は悪魔に務めてもらいましたわ」
「何か不備があって、刺されても悪魔なら平気ですわよね……だってよ。性格が悪魔寄りすぎるぜ。あんたの婚約者」
「悪魔にお墨付きされるほどとは……」
率直に恐ろしい。