首謀者
俺は剣を鞘に収めると悪魔に背を向けた。
「今回の件の首謀者から話を聞く」
「首謀者? 俺だが?」
「お前はせいぜい共犯者だろ。少なくとも首謀者ではない」
これまでの騒動において道筋を描ける人物は一人しかいない。
俺は寝ているふりをしている首謀者ラクレームを見下ろすようにして仁王立ちをする。
「起きろ、ラクレーム。全部分かってる」
「おいおいおい! 何してんだ? その婚約者が首謀者? 馬鹿言ってんじゃないぞ、そいつは俺にまんまと利用された愚かな貴族の子供だよ」
体を真っ二つにされたというのに悪魔は随分と元気に声を出す。
「私はラクレームが愚かとは思わん。お前は利用しようとしたが、利用された側なんだろうさ。どうやってかは分からないが……そうでもないと現状の理由が説明出来ないからな。起きてくれ、ラクレーム」
俺はしゃがみ込み、ラクレームに顔を近づけて、じっとしばらく黙っていると動かないでいることが限界になったのか、ラクレームの目が開いた。
「あらら、いろいろとバレているようですわね」
軽い口調で声を発しながら、残念そうな表情を浮かべるラクレームに手を貸して立ち上がらせる。
ラクレームはドレスについた葉っぱを払い、綺麗になったことを確認すると両腕を上に上げて体を伸ばした。
「うーーん、ずっと動かないようにしていたら体が固まっていますわ」
「ラクレーム。説明をしろ」
「その前に何時からバレていたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。バレるような落ち度は無かったはずですわ。ちゃんと計画しましたもの」
「落ち度かどうかは分からんが、いくつか疑問があったからな。それを積み上げた結果だ」
「どのような疑問ですの?」
「全部言わせる気か?」
「グリオット様の探偵のような姿が見たいですわ」
「この場合、犯人役はラクレームなんだぞ」
「それはそれで楽しい役回りですわ」
ラクレームには何を言っても無駄なような気がしてきた。
「……最初の疑問は助けを求めに来たレジェスさんだ」
「レジェスが何か失敗するとは思えませんわ。何か変なことを言いまして?」
「いや、彼女の言葉に疑問を感じることはなかった。ラクレームが襲われたと聞いて焦っていたしな。何かあったとしても、そこまで気は回らないさ。疑問の点はレジェスさんが逃げてきたこと自体だ。彼女の変わりに森の中に入って盗賊達と戦ったが、あいつらは無傷だった。レジェスさんが人並み以上に戦える実力があるのは普段の立ち振舞を見ていれば分かる。その彼女が何も出来なかった様子で逃げてきたんだ。疑問に思ってしまう」
本当にラクレームが襲われたのだとしたら、レジェスさんは俺に助けを求めるよりも戦いを選択していただろう。その上で無理だと別れば逃げる選択を取るとは思うが、その場合でも盗賊に手傷の一つも負わせないことはないだろう。盗賊達がレジェスさんに手傷を一つも負わせられない実力だったとしたら、俺は勝てていない。
俺が盗賊達に勝てたということはレジェスさんも俺に助けを求めるまでもなく、対処が出来た可能性が高い。
「次の疑問はありまして?」
「2つ目はそこの悪魔の私への対応だ」
「俺か?」
ラクレームと俺から向けられた視線に対して悪魔は気まずそうに顔を反らした。