条件付き
「それで婚約者の安全のために俺と契約するか?」
「契約はしない」
「っ!?」
俺の回答に悪魔は驚きの表情を浮かべた。
「即答だな。少しは迷うかと思ったぞ」
「迷ったさ。だが、この国が滅びる契約は出来ないと判断しただけだ。私として、公爵家の人間として、その契約は出来ない」
「国のためには婚約者が死んでもいいというわけか。薄情とは言わないが、もう少し情をかけてもいいんじゃないか。それとも所詮は親が決めた婚約者というわけか?」
「迷ったと言ったぞ。彼女は人のために動けるとてもいい子だ。そんな子が婚約者というは誇らしい。恵まれているだろう」
「少しは気に入っているというのなら、言葉だけでなく態度で示したらどうだ?」
悪魔に言われるまでもなく、俺は剣を構える。
「どういうつもりだ?」
「お前が言う契約を無条件に結ぶわけにはいかない。だが、ラクレームも見捨てることなんて出来ない。だから条件を付けたい」
「条件? 言ってみろ」
「次の一刀で勝負する。お前が避けれたら契約してやる。避けれなかったら契約は無しだ。ラクレームを無傷で返してもらう」
「……おいおい、今さっきまで戦って分かっただろう。お前の動きは全部読めているんだ。一刀にお前の全力を込めたとしても予想の範囲内だよ」
「勝てる勝負なら受けるよな」
悪魔の眉がピクリと揺れる。煽り文句に十分反応してくれたようだ。
「いいだろう。口車に乗ってやろう」
「ラクレームを地面に寝かせろ」
「分かっている。さすがにこのまま勝負はせんさ。ただでさえ有利すぎるというのに」
素直に悪魔はラクレームを少し離れた地面に横たえると俺に近づいてくる。
「このくらいの距離でいいか。近すぎても困るだろう。そして、ついでだ」
悪魔の姿がラクレームから古い絵画に出てくるような悪魔の姿に変わる。真っ黒な体に鋭い爪と牙、背中にコウモリの羽はないが、妙に見覚えがある悪魔の姿だ。おそらく体格も自在に変えられるはずなのに、体格自体はラクレームに化けていた頃からさほど変わっていないのは余裕なのだろう。
余裕を持っていてくれるのなら、俺としてはありがたい限りだ。
「婚約者の姿のままでも躊躇はなく斬りつけてくるだろうが、迷いがないわけではないだろう。勝負が終わった後に姿が原因などと下手な言い訳は残させんからな。心の底から負けたのだと自覚してもらう」
「これから斬る相手に言う言葉じゃないが言っておく。心残りは無い方がいいからな。感謝する」
礼を最後に言葉のやりとりが途切れる。