救出
「グ、グリオット様ぁ~」
泣きそうな声を出すラクレームを安心させるために声をかける。
「大人しくしていろ。すぐに助ける」
「助けるって、どうやってだ? そこから一步でも動いたらこのお嬢ちゃんは……」
「ラクレームは貴様にとって大事な人質だ。命は取れない」
「……たしかにそうだ。お見事。正解だ。だが、命は取らないだけだ。いいのか、綺麗な顔に一生残る傷を付けることは十分出来るんだ」
「それは出来るだろうな。だが、盗賊。おまえがラクレームの傷つけた瞬間、私は貴様の首を飛ばす」
「婚約者だろ? 傷を付けて構わないってか?」
「婚約者だからだ。傷が付いたとしても責任を取る」
俺としての覚悟ではあるが、ラクレームはそうはいかないだろうというもの理解している。女の子にとって傷、特に顔の傷というのは責任を取るというだけでは賄いきれないモノだろう。
なので、狙っているのは盗賊がラクレームの顔を傷つけるために剣をラクレームの首筋から離す一瞬だ。
「立派な婚約者だな。その歳で責任なんて言葉をちゃんと理解しているのか分からんが」
「理解しているさ。おまえよりはな」
「そうかいっ!」
盗賊が動き、剣先がラクレームの首筋から離れて顔へと向かう。
俺は走り出しながらコム・ウィンドを放つ。
狙いは剣ではなく、盗賊の胴体。
高速魔法を更に短縮して、放ったために打撃としての威力はほぼ無い。
だが、放たれたコム・ウィンドは確実に盗賊の体に当たり、わずかにだが体勢を崩す。
体勢が崩れ、盗賊の剣先とラクレームの距離が開いた隙に、俺の突き出した剣が盗賊の腕を刺した。
「ぐっ!」
盗賊の手から剣が抜け落ちる。
俺はラクレームの体を掴んで引き寄せると同時に盗賊へ蹴りを撃ち込んで突き放した。
「怪我は!?」
ラクレームの顔を軽く手で触りながら確認する。
どこにも傷は見当たらず、どうにか怪我はさせなかったことに安堵した。
「グリオット様、淑女の顔をそんなに触るものではありませんわ」
「今、その言葉が言えるなら大丈夫だな」
ラクレームが下手に落ち込んでいたり、混乱していないのは彼女の心が強いからだろう。