盗賊の頭目は
剣を撃ち込んできた盗賊はその後、一切動かずに倒れていった。
「ネクロマンサー……」
死者を操る術を使う存在の名前が口から漏れる。
生前、ネクロマンサーが操る死者と何度か戦ったことがあるのを思い出す。ネクロマンサーに操られた死者達も今戦った盗賊達と同じように予備動作を必要とせずに動いていた。筋肉で動くのではなく、術者の魔力で動かされているためだ。
盗賊達はネクロマンサーに操られていたのかというと、これも違う。
盗賊達は目は虚ろだったが、生きてはいた。何度か剣を交えて接近して戦っていたので、相手が生者かどうかくらいは判断が出来る。
現在、分かっている情報だけで状況を説明すると、何者かに操られて意識が朦朧となった盗賊がラクレームを拐おうとしていることになる。
何者かについては対話が出来た盗賊の頭目が一番の候補になるが、あの頭目の言葉選びからはさほど知性を感じなかった。ネクロマンサーに類する魔法を使うには異質な才能と知識が必要だ。並程度の魔法が使える人間がなれる存在ではない。
それほどの才能がある人間が盗賊の頭目程度に収まっているはずがない。安定した職として国直属の魔法使いとして仕えることは容易だろう。
(全ては推測だ。才能があっても、誰かに仕えるのが嫌で盗賊をやっている可能性もある! いや、今はこんなことを考えている場合じゃない!)
考えるのは後だと逃げた盗賊の頭目の後を追った。
盗賊の頭目が逃げた先は俺が来た方、つまり、山道がある方ではなく、さらに山奥へと入っていく方角だ。俺が知らないだけで別の山道があるのだろうか。
ラクレームの体重が軽いとはいえ、抵抗する人間一人抱えて走るのは大変だったらしく、直ぐに盗賊の頭目の後ろ姿を見つけることが出来た。
「追いついたぞ!」
牽制目的の俺の叫び声に盗賊の頭目の足が止まる。
「はえぇな。あいつらをもう倒してきたのかよ。それなりに手強かったはずだぜ」
「私が貴様の思ってるよりも強かったということだ。部下は全員居なくなったぞ。本当に金が命より大事ではあるまい。ラクレームを返せば、見逃してやる」
「見逃してやるのは俺の方だぜ。嫡男様よ」
盗賊の頭目は肩に抱えるラクレームの首筋に剣を当てた。直前まで抵抗していたラクレームは今暴れると首が傷付くと判断して抵抗を辞める。