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加速する違和感

 盗賊の頭目は何か考えるように口を小さく開け締めしたのち、何かを確認するかのように視線を泳がす。

 草を踏む音と共に目の前の盗賊達が斬りかかってくる。

 盗賊の頭目に注意を反らしすぎたために反応が遅れるが、単調な攻撃のためになんとか躱して一人の腹部を突き刺す。まだ死んではないが、もう動けない傷を負わせたので、これで残りは頭目含めて三人だ。



「金が欲しいだけならくれてやってもいいぞ」


「ほう、そりゃいいな。嫡男様から頂いて、その後にこっちのお嬢さんの家からも頂けるってことだ」


「強欲が過ぎるぞ」


「盗賊なんでね。おい、おまえら! しっかり足止めしておけ!」



 盗賊の頭目はラクレームの腕を掴むと乱暴に引っ張って、森の奥へ連れて行こうとする。



「やめてくださいっ!」


「抵抗するなっ!」



 ラクレームは精一杯抵抗するが、力で叶うわけもなく盗賊の頭目の肩に抱えられてしまう。

 俺は逃がすわけにはいかないと距離を詰めようとするが、その間に盗賊二人が入り込んできた。無理に走り抜けようとしたが盗賊達二人の動きが先程よりも速く、進路を防がれてしまう。

 急に動きが早くなったことを疑問に思わせる間もない攻撃が続けざまに襲いかかる。



(攻撃の動きがっ!)



 盗賊達の目の焦点は相変わらず合っていないが、別人かのような連携攻撃をしてくるので防戦になった。

 その隙に盗賊の棟梁とラクレームの姿は森の奥へと消えていってしまった。



「……」



 二人を追いかけたい衝動を抑えて残された盗賊達と相対する。



「お前達は一体何なんだ。ただの盗賊じゃないだろ」



 剣の実力を自慢するわけではないが、純粋な剣の実力なら俺は盗賊達の数段上を行っている。先程の攻防で大体の実力は理解した。本来なら苦労せずに倒せる相手だ。

 ならば苦戦しているのは何故だろうかと考える。



(……見えないからだな)



 人間を相手にする時も、動物を相手にする時も動き出す前の準備動作を見て、先読みして行動をしている。戦う時は自然に行っているため、普段は意識はしていない。

 それが今は妙に意識させられている。


 理由は盗賊達の動きの準備動作が見えないからだ。重心を前に傾けたり、膝をわずかに曲げたりと動く前に行われるだろう動きが盗賊達には一切ない。

 違和感は思考を鈍らせて、俺の動き自体も鈍くさせている。

 今までは違和感を感じても、盗賊達の動き自体が単調だったので倒すことが出来ていたが、今、相対している二人は今までの盗賊達に比べて段違いに動きがいい。



(似たようなのと何処かで戦った記憶があるが……あれは何だったか)



 記憶の中の引っ掛かりを頼りに探るが、冷静に考える間を与えないかのように盗賊達が襲いかかってきた。


 

(考えるのは後だ。今は少しでも速くを倒して、ラクレームを追わなくては)



 俺は体を後ろへとズラして、盗賊達の一撃を回避すると攻撃した後の隙を狙い、盗賊達を斜めに斬り伏せる。

 行動が読みにくくても、行動が終わった後に素早く落ち着いて対処すれば問題はない。

 斬られた盗賊達二人が倒れるの横目に盗賊の棟梁が去っていった方向へと足を向ける。



(早く追わなくては)



 一步踏み出した時、違和感から反射的に構えた剣と斬り伏せたはずの盗賊の剣が交差した。



「っ!?」



 驚き見ると、盗賊の一人が傷口から血を大量に流しながらも剣を撃ち込んできていた。

 もう一人の盗賊は地面に倒れて動いていない。与えたダメージは同じ程度のはずだ。なので、当然、盗賊は二人共、死んではいなくともまともに動けないはずだ。


 精神力だけで立ち上がったというには違和感だ。違和感ばかりだ。

 精神力と言うなら強い気持ちが必要だろう。しかし、盗賊達からは気持ちや感情が一切感じられない。

 ただ動かされている人形のようだ。

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