遭遇
「ラクレーム、どこにいる!」
森の道なき道を進みながら、ラクレームの名を叫ぶ。
ラクレームを追いかけている盗賊の仲間に俺の存在を知られることになるが構わない。警戒してラクレームよりも俺の方に襲いかかってくれる方が状況的にいい。
「反応はないっと」
ラクレームからの返事がない中、いつ盗賊に襲われるか分からない緊張感から歩く足が遅くなる。視界が悪いのは分かっていたが、想像していたよりも死角が多い。前世でも森の中での戦闘は数えるくらいしかしてない。その戦闘時も一人ではなく、仲間がいたので周囲を見張ることで死角を少なくすることが出来ていた。森に一人だとこうも心細いとはと今更な感想を抱いた。
歩き続けていると森の開けた場所に出た。見通しが効く場所に安心する間もなく、視界の中にラクレームと盗賊達が居た。
「ラクレーム!!」
ラクレームは逃げられないように五人の盗賊達に囲まれていて、怯えた表情を浮かべていた。
「グリオット様!」
「今、助ける」
ラクレームに向かって駆け出すと槍を手にしていた盗賊が最初に動き出し、槍を突き出してくる。
「当たるものか」
フェイントもなく直線的な攻撃を躱し、すれ違いざまに剣を切り上げて盗賊を倒すと時間差で盗賊が三人、正面と左右から襲いかかってくる。
「ちっ」
さすがにそのまま進むわけにはいかずに急停止をすると背後に回避して、今しがた斬り倒した盗賊の体を追撃してくる三人に投げつける。
仲間の体をぶつけられて、盗賊達の足が止まり、俺の方も構えを取られた三人組相手に勢いで突っ込むわけにもいかずに膠着状態になった。
俺は目の前の盗賊三人の他、ラクレームの近くに残っている盗賊にも視線を移す。
ラクレームの近くにいる盗賊は他の盗賊達よりも高めの装備を身に着けており、盗賊の頭目のようだ。
「おまえが頭目か」
「そうだ。怪我する前に逃げたほうが良いぜ。俺等はこっちのお嬢ちゃんがいればいいんだからよ」
「話が出来るようで安心した」
斬り倒した盗賊も目の前の三人の盗賊も目の焦点があっておらず、ここまで遭遇してきた盗賊同様に会話が出来そうになかったが、盗賊の頭目とは会話が出来そうだ。
「俺が誰か、その子が誰が知っているのか」
「知ってるぜ。公爵の嫡男とその婚約者だろ」
「知っていて拐おうとするとは命が惜しくないようだな」
「命が惜しいなら盗賊やってないね。金の方が大事だ。身代金をたっぷりいただくさ」
「俺達がここに来ることをどうやって知った」
「……」
俺の質問に対して盗賊の頭目は急に口を閉ざした。