チャレンジ
馬車はシュバインの街を後にして街道を走る。街道の左右には草原が広がり、遠くには林が見えた。しばらく街自体からも出ていなかったので、何気ないこのような風景にも心が癒やされる。
「何か面白いモノでもありました?」
俺の顔が緩んでいるのを見たラクレームが声をかけてくる。
「いや、普通の何でも無い景色だけだ」
「それにしては見たことのない表情をされていましたわ」
「そうか? ……そうかもしれないな。いろいろと気を張る日々だからな。ただの自然な光景に気が抜けたのかもしれない」
「最近のグリオット様は私が見たことのない表情をよくされますわ」
「これまではラクレームと今のように長時間一緒に居る機会がなかったからな。そのせいだろう。いや、おかげと思っておけ。いろいろな俺が見れるのは良いことだろ」
「ですわね。結婚する前に夫のことをよく知れるのは良いことですわ」
「俺もラクレームのことがいろいろと知れて良かったと思う」
「……」
良い反応があるかと思って言葉を返したのに、ラクレームは黙って俺を見るだけだった。
「どうかしたか?」
「いえ、何でも。お互いに同じ気持ちで嬉しいですわ」
「何でも無い反応ではなかったが」
「思ってもいなかった言葉に感動していたのですわ。グリオット様が私を見てくれていたなんてっと」
「ラクレームが近くにいたら見るだろ。何をしでかすのかと気が気でない」
「それは見ているは見ているでも、見張っているのではないですか?」
「俺にそうさせる言動が日頃多いということだ。騒がしいのは嫌いじゃないからいいが」
「グリオット様の好みということでしたら、もっと騒がせていただきますわ」
「限度があるからな。この前も言ったが、特に自分の身が危険になるようなことは許さないぞ」
「分かっていますわ。私、言われたことは守りますの」
「本当か?」
俺は疑惑の目をラクレームに、そしてラクレームの横に座るレジェスへと向ける。
「本当でございます。お嬢様の言葉は真実です。お嬢様は好奇心が盛んのため、ご迷惑をかけることもありますが、人に嫌がられたことは二度と行いません」
「君は嘘を付くような性格ではないだろうから、信じよう」
「レジェスではなくて、私を信じてくださいませ。グリオット様」
「俺がラクレームを信じることが出来るようになる行動を今日してくれれば考えよう」
「それは楽しいチャレンジですわ。私、気合が入ります」
「チャレンジという言葉で、俺はやや不安になったぞ」