表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/212

親心


「準備に抜かりはないよな」


「当然ですわ。念入りに準備いたしましたもの。そうですわね、レジェス」


「一切抜かりなく行いました」


「具体的にどんな準備をしていたか、聞いてもいいか?」


「駄目ですわ。楽しみが無くなりますもの」


「楽しいことで済むという確認を取りたいんだが」


「信用してくださいませ」



 ラクレームは自信満々に胸を張った。

 詳しく話す気はないという意思は硬いようなので、これ以上聞いても無駄だろう。



「分かった、信用しよう」



 俺の言葉にラクレームは満足げに微笑む。



「ラクレームが俺の屋敷で過ごすようになってどれくらい経つ?」


「一ヶ月と少々ですわね」


「そろそろ実家に戻らなくていいのか。せめて顔を見せに戻ってもいいと思うぞ」


「グリオット様はそんなに私達に屋敷を出ていって欲しいんですの?」


「そういうわけではない。両親の気持ちを思ってだな。子供の顔を一ヶ月も見ていないというのは、親としては物悲しいだろう」


「手紙のやり取りはしていますわ」


「親は子供の顔を毎日見ていたいモノなんだよ。特にラクレームくらいの年齢の子はすぐに成長するからな」



 生前の記憶として子供達の顔がおぼろげに思い浮かぶ。小さかった子供達が日に日に大きくなる様子は見ていて、とても嬉しかった。



「……なんか言い方が実際に子供がいる親の言い方みたいですわ」


「っ!? 何を言うんだ。一般的な話だろ」


「そうかもしれませんが……実感がこもっていたように感じましたわ」


「気の所為だ。実感なんてあるわけないだろう。私もまだ世間的には子供だぞ」


「ご自身を子供と感じることがありますの?」


「晩餐会へ参加すると否応にもな。皆、私を褒めて近づいてくるが、実際に近づきたいのは父上の方だから。私が父上へ近づくための当て馬というわけだ。私、個人として見られていないのさ」


「私からすると大人なグリオット様でもそうなんですのね。晩餐会……大人の貴族世界は大変そうですわー」


「今からせいぜい覚悟をしておくことだ。で、話は戻すが実家に一度くらい帰ってもいい頃合いだぞ。別に喧嘩をしてるわけでもないのだろう」


「そこまでおっしゃるのでしたら、近い内に一度戻りますわ。今日で一区切りつきそうですし」



 ラクレームが声を細めていたせいで、最後の方がよく聞き取れなかった。



「最後、なんと言った?」


「今日を楽しく過ごしたいと言いましたわ」



 わずかに聞こえた言葉との差異に違和感を覚えたが、誤魔化しているとしても、ラクレームは尋ねて、素直に真実を答えるような子ではないので、追求はしないでおこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ