おっかなびっくり待つ
「そちらのお一人は大丈夫そうですけど?」
「一人だけ大丈夫では駄目だろ。念の為に護衛も必要だ」
「何がありましても、グリオット様が守ってくださるのではないのですか?」
「何も起こってほしくはないが、その場合は最善を尽くす。その上でだ。人手は多い方がいい」
馬車の運転、荷物持ちや着いた先での準備。本当に山登りをしない場合でも最低、俺とラクレームの他に6人は欲しい。本当に山登りをするなら人数はもっと必要だ。
「なるべくなら少人数がいいですわ。グリオット様と二人っきりが一番ですけど、さすがに無理だと分かっていますから、せめて」
「……本当に山を登らないこと、目的地での食事を簡易的にすれば人は減らせる」
「仕方ないですわ。山へ登るのはまたの機会で。今回は麓でゆっくりすることにしましょう。食事については近隣の村から食材等を取り寄せれば、レジェスが料理してくれますわ」
「レジェスは料理も出来るのか」
「ラクレーム様にとって、必要なことは一通り出来るようにしておりますので」
レジェスは感情の無い淡々とした答えを返す。
「無理難題を言われてるんだろうな」
「ラクレーム様は無理なことは言われません」
「……」
それはレジェスが何でも出来てしまうから、無理でないと結果的になっているだけではないだろうか。
「どうかなさいましたか?」
「いや……優秀な執事だと感心していたんだ」
「お褒めのお言葉ありがたくいただきます」
「羨ましいですわ、レジェス。私も褒めていただきたいです」
ラクレームが対抗するように声が上げる。
「少し前に褒めたと思うが?」
「褒められることは多い方がいいですわ」
「褒めるべきことをしたのなら、きちんと評価して褒めるさ」
「ならなら、評価していただきませんとね。山登りではなく……ピクニックになりそうですけど、準備をしっかりして、すばらしいぞ、ラクレームと褒めていただきますわ」
「そう言うからには準備は全て任せていいんだな」
「ええ、グリオット様はお忙しいでしょうし、準備は私にお任せを。グリオット様は当日まで健康にお過ごしていただければ結構ですわ」
ラクレームに準備を全て任せることに不安は大きかったが、ラクレームのやる気に満ちて楽しそうな顔を見て、余計な手助けをするよりは彼女を信じて待つのも良いかと思った。
当日まで俺はせいぜいおっかなびっくり過ごしていよう。