提案
グリオットは羊肉が苦手のようだが、俺としては苦手ではない。肉はどの種類でも好物だ。
亡くなる間際は年を取っていたこともあって、満足に食事が出来なかった。なので、今こうして好きな物を食べれるというのは、本当に嬉しく感じている。
俺はせっかく用意してくれたというもあり、最初に羊肉にナイフとフォークを向かわせた。
一口大に肉を切り分けて、ラクレームが心配そうに見守る中、口の中へと運ぶ。
甘酸っぱいソースの酸味と共に柔らかい肉の食感が口の中に広がる。羊肉特有の匂いについてはソースのおかげか、殆ど感じなかった。
「これは……美味しいな」
「本当ですの!?」
「今まで好き嫌いしていたのが、もったいないと思うほどだ」
「良かったですわー。お口に合わなかったら、どうしようかと」
「いらぬ心配だったな。ほら、ラクレームも食べるといい。温かいうちが一番だ」
「はい、いただきますわ」
安心したラクレームも食べ始める。一口、口に入れると満面の笑みを浮かべた。
「美味しいですわー」
「ラクレーム、今回のように料理の食材を自分で決めることは頻繁に行うのか?」
「そうですわねぇ。食べたい物がある時はしますから……頻繁にということで合っていると思いますわ」
「行動力がすごいな」
「褒められてます?」
「褒めている」
「直接的に言われると照れますわね」
若干、照れた表情を浮かべたラクレームと談笑をしながら夕食を終えた。
食後に紅茶を飲んでいると、ラクレームから一緒に出かけませんかと誘われた。
「山登り?」
「グリオット様は街中でばかり生活していますでしょ? たまには自然の多い場所へ行くのは良いと思いますわ」
「それはいい提案だと思うが……それで山登りとは。女性のラクレームから提案されるとは思わなかった」
「女性だからと偏見と言いたいところですけど、確かに山登りをする貴族の子女はいませんわね。私は結構好きなんですけど」
「ラクレームは好きなモノが多い気がするな」
「嫌いなモノが多いよりはいいことですわ」