次善策
手紙の続きには許可が下りなかった場合の次善案には許可が下りたと書いてあった。
「よし。とりあえずは調査が進んだと考えておこう」
次善案は書庫を管理している宮廷魔法使いに魂を乗り移らせる魔法が存在するのかを調査してほしいとの内容だ。荒唐無稽な調査依頼なので断れる可能性もあったが、公爵家の頼みということで引き受けてくれたのだろう。
それでもどの程度、真面目に調査してくれるかは分からないが、まったく調査しないわけでもないだろうから、この後は調査結果を待つしかない。
晩餐会の招待状の選別が終わる頃には夕食の時間になっていたようで、メイドが呼びに来た。
食堂へと移動するとラクレームが先に席で待っていた。
「待たせたか」
「ええ、とっても」
「……そこは待っていないと答えるのが礼儀ではないか?」
「礼儀なんですの? 私は本当のことを口にしただけですわ」
「ラクレームらしいとは思うが……いや、別に文句ではない。感心したんだ」
「私を褒めるのは少し早いですわよ」
「なんだ? 何かあるのか?」
テーブルを挟んで、ラクレームと向かい合うように席に座る。
「本日の夕食は私が決めましたの。食材から調理法まで。本当は実際に料理をしたかったのですけど、まだグリオット様に食べていただける腕前ではありませんので、今回は自重しましたわ」
「私が好きな食材を選んだというわけか?」
「そうですわ。羊肉ですの」
「……ラクレーム、話したことがなかったかもしれないが、私は羊肉が苦手だ。食べようと思えば食えないことはないだろうが、好んでは食わん」
「あら、そうでしたの? 申し訳ありませんでしたわ」
ラクレームの表情があからさまに沈む。
以前、グリオットの好みなどから疑惑を向けられて、アントルに俺の正体を見破られた経験があるので、グリオットの食の好みや趣味については、改めて調べている。もうグリオットの以前からの知り合いに余計な疑惑を持たれないようにする対策はしてある。
「気にするな。ただの好き嫌いだ。せっかく用意したのだというのなら、この機会に食べてみようではないか。しばらく口にしていないからな。改めて食べると美味しいと感じるかもしれない」
「無理はなさらないでくださいね」
「無理ではない。好き嫌いを無くした方が良いと思っているだけだ」
「……では、お言葉に甘えさせていただきますわ」
ラクレームが合図をすると、俺とラクレームの前にサラダやパンの他、ラクレームが言っていた羊肉のローストが運ばれてきた。羊肉のローストには香り立つソースがかけられており、食欲をそそった。