貴族としてと、個人としてと
ラクレームとの茶会後、自室に戻る途中で俺宛の手紙をいくつかメイドから手渡された。
自室で中身を確認すると、様々な貴族からの晩餐会へ招待状だった。
まだしばらくは自己鍛錬の時間を作りたいので、晩餐会へ参加するのはもう少し後にしたい気持ちはあるが、貴族として誘われた晩餐会に一つも参加しないということも出来ない。各貴族から向けられる感情は良くしておかなくては今後の動きに関わってしまう。
妥協点としては参加する晩餐会を選ぶ必要があるのだが、そうすると今度は選ばなかった貴族から晩餐会には参加しなかったのに、あちらの貴族の晩餐会には参加していると悪い感情を向けられてしまう。仕方がないことなのだが、出来る限り、穏便に済むよう参加する晩餐会を選ばなくてはいけない。
この場合、考えるべきは断る理由だろう。その日は予定があるので参加出来ないというのが無難だ。家の事情などで相手が納得出来る理由があればよいのだ。
フォレノワール家との関係や爵位を考慮して参加する晩餐会を選んでいく。
参加出来ない晩餐会の理由については、父親からの頼まれ事があるとしておく。公爵家であるフォレノワール家の当主の用事が優先されることは、当然だと理解してくれるはずだ。
本当は父親からの用事どころか、俺がグリオットに乗り移ってから、一度も父親であるフォレノワール・キリシュと顔を会わせたことすらない。
父親としての愛情はあるのだろうかと不安になりながら、手紙の選別を行っていると部屋の扉が叩かれた。
「グリオット様、申し訳ありません。渡し漏れていた手紙が一枚ございましたので、届けにまいりました」
「おいおい、しっかりしてくれ。それが晩餐会への招待状だったら、選び直すことになるぞ」
ややうんざりしながら、メイドから手紙を受け取る。
幸いなことに手紙の送り主は貴族ではなく、アントルだった。
本家の仕事で忙しいアントルはいつも俺の屋敷へ来れるわけではないので、何か伝えることがある時には手紙のやり取りをしている。
直近でやり取りしていた手紙の内容は王城内の書庫への立ち入りと本の閲覧許可についてだ。
俺の今行うべきことはグリオットとしての生活を続けること、そして、俺がグリオットの体に乗り移った原因を見つけることだ。乗り移った原因として考えられるのは何かしらの禁術、特別な魔法だ。
目的は分からないが、何かしらの目的を持って、俺をグリオットの体へと乗り移させたのは間違いない。目的と犯人を知る上での手がかりとして、過去の人に乗り移る術を見つけなくてはいけない。
目的が悪意に満ちたモノなら、俺はその目的を防がなくてはいけない。
手紙の中身を読んでみると、予想はしていたが、書庫への立ち入り及び本の閲覧許可が下りなかったことの報告だった。
「やはり公爵家といえ、学生の身分では難しいか」