メディシス家
ラクレームの行動力には関心するしかない。本人も言っているが、本当にやりたいことを真っ直ぐに実施しているのだ。
「そのうちにやりたいことが無くなったりしないか?」
「大丈夫ですわよ。きっとその前に、やりたいことが出来なくなりますわ」
「私と結婚をしたらか? ラクレームの行動を特段縛るつもりは無いぞ」
「お心遣いありがとうございますわ。グリオット様はそうおっしゃられても、他の貴族はそう思いません。フォレノワール家に嫁いだ妻として、相応の振る舞いをしませんと家に迷惑をかけてしまいます」
「だからこそ、今だけはということか?」
「はい、お父様も許してくださってますわ」
ラクレームの父であるメディシス家の現当主に興味が湧いてきた。ラクレームの自由奔放を許すのは、ただの親の過剰な愛なのか、それとも考えがきちんとあってのことなのか、一度会って話を聞いてみたい。
グリオットとしては当然過去に会ったことはあるのだろうし、話を聞く機会を作る程度は難しくないだろう。
かつて親だった記憶があるので、他の親の育成方針というのには興味がある。実の子供達に対しては俺が国王だったこともあって、正しく接することが出来たかという不安がいつまでも合った。子供達は素直に育ってくれたが、それは俺以外、母親や家臣達のおかげだという認識が強い。
俺が子供達に出来たことは何があっただろうかと思い返すと後悔ばかりが思い浮かびそうだ。
「ラクレーム、父親は好きか?」
「もちろんですわ。父も母も大好きです。そして弟も」
弟がいるのかっと反射的に聞き返しそうになるのをなんとか堪える。
婚約者としてラクレームに弟がいることは既に知っているはずの情報だ。聞き返してしまうとラクレームに疑惑を与えてしまう。
しかし、俺としては何も情報がないのが現状なので、ラクレームの情報を聞き出しておきたい。
アントルから聞いてもいいのだが、そのためにわざわざ本家から呼び寄せるのは申し訳ない。自分に出来ることは自分でしなくてはだ。
「弟の名前は……なんだったかな。最近学校が忙しいせいか、忘れてしまったよ」
「あらあら、酷いですわ。弟がショックを受けてしまいます」
「本人には知らせないでくれ。で、ショックを与えないためにも、名前を改めて教えてほしいのだが」
「焦らすものではありませんし、お答えします。キュロスですわ。メディシス・キュロス。次期メディシス家の当主ですので、仲良くしてくださいね」
「いずれ親族になる者だ。仲良くはするさ」
「そうおっしゃるなら次は名前を忘れないでくださいね」