帰宅
服をボロボロにして家に帰ると、ラクレームが驚きの表情を浮かべて出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、どうなさったのですか!? そのご様子は」
「学校で少々厳しめの自主練をしたせいだ。ボロボロなのは服だけだ。怪我はしてない」
「怪我をしていないのでしたら、良いのですけど。グリオット様がボロボロになるまで学校で自主的に練習を行うとは驚きですわ」
「貴族として、負けるわけにはいかない連中がいるのだ。気を抜いていると無様な様を晒す羽目になる。それは避けなくてはいけない」
「えっと……それは元平民というお二人のことでしょうか?」
「っ!? 誰から聞いた?」
学校内での話題をラクレームが持ち出してきたので、今度は俺が驚く方だった。
「誰というわけではありませんわ。学校の噂を聞くくらい方法はいくらでもあるんですのよ」
「……確かにな。別に隠しているわけでもないし、噂話くらいは流れてくるだろう」
家の力を使って学校内の情報を収集したのだろう。
「そうですわ。で、私が聞いた話では元平民のお一人に負けられたとか」
「そういう噂も聞いているんだな」
「ええ、ですが、所詮は噂。グリオット様が元平民相手に負けるなんてありえません……とつい先程まで思っていましたわ。負けるわけにはいかないと言葉に出していたことから察するに、一度負けか、実際に負けに近しい状況になったのは間違いないのでしょう」
「ラクレームに隠す必要もないので話そう。一度負けている」
正確には俺がグリオットに転移したのは、ラティウスに負けた後だったので、俺自身は負けを体験してない。だが、周囲から聞いた情報と生前の俺の記憶から察するに一騎打ちの剣技勝負でラティウスに負けているのは間違いない。
「一度負けた故にもう二度と負けることは許されないのだ」
「発言としてはグリオット様らしいですわ。ですが、言葉の節々から感じる熱意というかやる気のせいで、ジメっとしてませんわ」
「言葉にジメッととはどういう感想なんだよ」
「纏わりつくような面倒くささという表現でもいいですわよ」
「……良い感想でないことは分かったよ、分かっていた」
ラクレームのグリオット評をどうにかしたい気持ちはあるが、下手に行動すると将来に向けて支障が出る可能性があるので行動に踏み切れない。
俺は出来る限り、本来のグリオットとして行動を行い、貴族達の間での信頼を得ていかなくてはいけないのだ。
国王暗殺未遂に関わるためには計画から除外されるような行動をとるわけにはいかない。