貸し借り
思わず体が動いてしまった結果ではあるが、どうにかグリオットらしい貴族としての理由をつけなくてはいけない。
「何をだと? 助けてやったんだ。まずは頭を深く下げて、礼を述べるのが先だろう」
「納得する理由が聞ければ、頭の一つくらい下げてやるわよ。今のままだと気持ちが悪すぎるわ」
気持ち悪いとはまで表現しなくてもいいだろうにと内心で落ち込みながら、必死に理由を考えて口に出す。
「貴族として最低限度の気品をこいつらが破ったからだ」
「気品?」
「そうだ。貴族としての力を使い、人を集め、計画し、戦うのはいい。多数で戦うことは卑怯ではない。だが、騙し討ち、不意打ちは貴族としての気品を損なう行為だ。そのような行為は力の無い者達が取る下策だ。ゆえにおまえを助けはしたが、それはおまえのためではない。私がこいつらを許せなかったからだ」
「一応、それっぽい理由ではあるわね」
俺としては思いつきの割に良い理由だったと思ったが、まだトルテは不信感を拭えていない。
「おまえの納得など必要としていない。私の言葉が事実だ。さあ、理由を答えてやったんだ。頭を下げて、礼を述べるがいい」
「……まあ、私に頭を下げさせるのも目的ってことで納得はしておくわ」
しぶしぶといった感じでトルテは少し頭を下げた。
「助かったわ、ありがとう」
「頭の高さがまだ高い気がするが、まあいい。元平民に対して求めすぎるのは酷だ。ではな」
「ちょっと待ちなさいよ」
両腕が痛いので、早くこの場を去って手当したかったのだが、トルテに呼び止められてしまう。
「なんだ? 私は暇ではないんだぞ」
「理由はどうあれ、あんたに借りを一つ作ったままなのは嫌なんだけど」
「借りか。確かにな。私が防いだ一撃を背後から受けていたら、命は落とさないだろうが、重傷は追っていただろう。恩を感じるのは当然だ」
「あんたに恩を感じたままが嫌だっていうのよ。余計なもんはラティウスが戻ってくる前に無くしておきたいわ」
「恩は急いで返すものではないと思うがな」
トルテとしてはラティウスがいない時、俺、グリオットとの関係を拗らせたくないのだろう。
俺としてもラティウスに変に勘ぐられるのは避けたい事象だ。
「一つくらいなら……出来る範囲であんたの頼みを聞いてやるわ」
今後のためにトルテの提案を受けて、お互いに貸し借り無しの状態にしておく必要がある。そこで俺はトルテに魔法の訓練に付き合ってもらおうと考えた。これがラティウスだったのなら、勉強を教えてくれと頼むところではある。しかし、今、俺は一度人生を経験しているため、勉強はそれなりに出来ている。
しかし、魔法についてはグリオットの才能のおかげで、かなり使えてはいるが、まだまだ実力不足だ。先程のトルテの魔法での戦闘を見て、強く再認識していた。