高速魔法式
男子生徒が合図をすると、再びトルテに向かってコム・ウィンドが飛んでくる。
トルテは一部を防御魔法で防ぎながら、他の攻撃をかわしてく。
不利な状況におかれているのにトルテは冷静に対応をしている。
「……そういえばいじめの理由を聞いてなかったわね。何? 元平民だからとか下らない理由?」
「下らない理由などではない。これは貴族の名誉が理由だ。由緒ある我々貴族が元平民よりも劣っていることなど許されない。ゆえにここでおまえを叩き潰して、私達の方が上だと証明するのだ」
「多勢無勢の状況で上とか下とか言える太い神経は誇っていいわよ」
「多勢の状況を作るのも実力だ」
「それもそうね。あんた、口が上手いわね。将来は政治家?」
「そういうおまえは何時まで軽口を叩けるかな」
貴族生徒達の攻撃が続き、トルテが防戦一方になった。
このままではトルテが防ぎれなくなって怪我をしてしまう。トルテからすれば余計なお世話になることは分かっているが、俺が出ていって場を収めなくてはいけない。
「防ぐばかりで攻撃はしないのか。こちらの防御担当の生徒が暇そうなんだ。もう一度くらい攻撃してくれてもいいぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
トルテが攻撃してくる貴族生徒達がいる一箇所に手を向ける。次の瞬間、防御担当の生徒が吹き飛んで、訓練棟の壁に激突した。
「っ!?」
それを見ていた全員が驚く中で、次は同じ場所に居た攻撃担当の生徒が吹き飛ばされて、肩を痛そうに抑えながら床に転がる。
「な、何をした!?」
「何って……攻撃よ。攻撃魔法」
当たり前とばかりに答えるトルテに対して男子生徒は額から冷や汗を流して、動揺していた。
「でも、この攻撃は駄目ね。威力も精度もバラバラ。やっぱりもうちょっと調整が必要か」
トルテ以外は状況を正しく理解できない中で俺には思い当たることがあった。
高速魔法詠唱式。
クローセさん達を救出するために、フレス家の地下施設へ侵入した時、戦ったエーブとの勝敗を決した技術だ。従来の魔法よりも高速で魔法を放つことが出来る式をトルテは数年後に発表する。数年後に発表するのだから、学生時代から研究をしていても不思議ではない。
今起こった状況としてはトルテが高速でコム・ウィンドを放ち、防御担当の生徒が防御魔法を展開する前に撃ち抜いたのだ。防御魔法は常時展開していては魔力切れになるので、攻撃が当たる瞬間に展開するのが基本だ。
防御担当の生徒からすれば、いつもどおりの速度で放たれたコム・ウィンドを防ごうと考えていたのだろう。下手をすると魔法を放たれたという認識すらないかもしれない。
「まだまだ未熟ね。あいつが戻って来るまでにはもっと使えるようにしないと。けど、今はこれでも十分ね」
トルテの言葉が終わるのを待たずに訓練棟の各所にいた貴族生徒達が一斉に吹き飛ばされた。唯一、貴族の男子生徒だけはトルテが攻撃する前からずっと防御魔法を展開していたおかげで無事だった。