トルテという魔法の天才
学校の授業が全て終わったので屋敷へ帰ろうとしていると、魔法訓練棟へ向かっているトルテの姿が見えた。周囲には貴族の生徒達がトルテを取り囲むようにして一緒に歩いていた。トルテの友達というわけではないだろう。俺が覚えている限りでは学校内で、トルテには貴族の友人はいなかった。となると、あの状況はトルテが連れて行かれていると想定できる。
トルテ、そして今は学校を休学しているラティウスの貴族クラスでの対応は基本的に無視だ。最初の頃は二人を元平民と蔑むクラスメイトもいたが、その行為にも飽きたのか、それを行っていた筆頭である俺、グリオットがそういうことをあまりしなくなったので収まったのかは分からないが、最近は平穏な学校生活になっていた。
だが、それは表だけで、裏ではトルテの身に何かあったのかもしれない。
貴族主義であり、平民を差別しているグリオットとしては、トルテのことは無視するのが正解だ。トルテならば、ある程度の事態に対応出来るだろうという気持ちがある。気持ちはあるのだが、それでも心配する気持ちが積もる。今、この場にラティウスがいれば、どうにかしてトルテの状況を知らせて駆けつけさせるのだが、彼は今、遥か遠くで修行中のため、無理な状況だ。
「見てしまった以上は……仕方ないか」
言い訳を声に出すことで覚悟を決めると、帰ろうとしていた足をトルテ達が向かった魔法訓練棟へ向けた。
放課後の魔法訓練棟は自主練に使用できるが、そのためには教師の許可が必要となっている。許可制ということもあって、誰が使用しているかを教師に聞けば確認するのは容易だ。確認して他の生徒がいない日を選ぶことが出来る。
なので、今、魔法訓練棟にはトルテ達以外、余計な生徒はいないだろうと予想出来る。
早足で近づき、魔法訓練棟の中を覗くとトルテを中心にして囲むように貴族生徒達が立っていた。
ここまで来て今更だが、俺はどうするべきか悩んでいた。これから行われるのはトルテに対する貴族生徒達のいじめだ。それをグリオットが間に入って止めるというのはグリオットがするべき行動ではない。
俺が何もしなくてもトルテが対応出来そうなら、俺はこのままバレないようにこの場を去るのが妥当な行動だろう。
「今は見守るしかないか」
覗いている魔法訓練棟の中で、トルテを取り囲んでいる貴族生徒のリーダーらしき男子生徒が両腕を胸の前に組むと、トルテを威嚇するように声を上げた。
「元平民! 素直にここまで着いてきたことを褒めてやるぞ。もう一人の奴がいないと学校内もまともに歩けないんじゃないかと同級生として心配していた」
「……」
心配するような態度ではない男子生徒に対し、トルテは面倒くさそうにしている。