婚姻関係
「グリオット様、私との結婚は嫌ですの? 少し口ごもりましたけれど」
「不安にさせたのなら謝ろう。嫌ではない。ただ学校を卒業して、すぐに結婚は忙しいと感じてな」
「結婚は早い方がいいですわよ。フォレノワール家の繁栄のために子作りをしないといけませんし」
「……」
貴族の名門として血筋を絶やさないため、子供を作らなくてはいけないのは貴族の義務ではある。だが、そのことをまだ幼さが残るラクレームが口にするので、なんとも言えない気分になる。
「どうかなさいましたか?」
「なんというか……ラクレーム。他の人がいる場で子作りと発言するのは控えたほうがいい」
「ここはグリオット様のお屋敷で周りには身内しかおりませんし、問題ないと思いますわ」
「他の者が困るだろう」
実際、クローセさんが先ほどとは別の意味で顔を赤らめて困っている。
「何度目かの感想になりますが、変わられましたわね。グリオット様が他の者を気にかけるなんて」
「いい成長だろ」
「世間的にはそうですが、グリオット様的には減点項目ですわ」
「減点になるなら、婚約は辞めにするか」
「意地悪なことを言わないでくださいな。私の感情だけで婚約の解消は出来ませんわ」
家同士が決めた婚姻関係を爵位がフォレノワール家よりも低いメディシス家から解消することは出来ない。大きな非がフォレノワール家、または俺にあれば話が異なってくる。それこそ国王暗殺未遂事件の罪はメディス家から婚約を解消するのに十分すぎる材料だ。
俺が生き抜いた歴史ではそうやってメディシス家はフォレノワール家との婚約を解消したのだろう。
「悪かった。確かにいじわるだったな。お詫びに俺個人用として置いてある菓子を出そう。クローセさん、頼む」
「承知しました」
クローセさんが菓子を取りに屋敷へと戻っていく。
「グリオット様のお気に入りのお菓子ですのね。楽しみですわ」
「期待には添えると思うぞ」
俺が一人で楽しむためにと用意していたお菓子を出されると分かって、ラクレームが嬉しそうにはしゃぐ。その様子は年相応で微笑ましかった。
ラクレームの姿から、生前の実の子供達の姿が脳裏の浮かんだ。手のかかる子もいたが、全員愛らしい子供達だった。彼、彼女らは当然まだこの世界に存在していない。本来の俺である
ラティウスが俺の知る通りの人生を歩んだとしても、同じ子供が生まれるとは限らない。だが、可能ならば、また会いたいと望んでしまう。
一度は満足して亡くなった人生ではあったが、それでも家族と再び会いたいと願ってしまうのは仕方がないことなのだろう。