欲しい?
この後の流れとしてはラクレームとお茶をしながら、休憩をすることになるが、先程の話を聞いた後でラクレームと席を一緒にするのには戸惑いがある。
だが、せっかくクローセさん達が準備してくれたのを無駄にするわけにはいかないと、息を入れてからお茶とお茶菓子が用意されているテーブルへと向かう。
「お疲れ様でした、グリオット様」
「稽古よりも先程の一瞬の方が疲れたよ」
「え?」
気遣いの言葉をかけてくれたクローセさんに素直に思っている言葉を返すが、彼女は不思議そうに首を傾げた。
反応からするにラクレームとの出来事を見ていなかったのだろう。角度的にか、準備をしていたからかは分からないが、人が飛び降りる瞬間というのはショックを受ける光景だ。見ていないようならそれがいい。
「気にしないでくれ。それより用意してくれた茶は何かな」
クローセさんよりも先にラクレームが答えてくれた。
「ハーブティーですわ。酸味が強いですが、疲労回復に良いとのことですの。お茶が酸味が強いので、その分、お菓子は甘めにしましたわ」
ラクレームの説明通り、テーブルの上には酸味の匂いがするハーブティーとドライフルーツが練り込まれた焼き菓子が置かれていた。
「ラクレームが選んだのか」
「いいえ、私が選んだわけではありませんの。私は疲労回復に良い飲み物とそれに合うお菓子はありませんかっとお願いしただけで、用意はそちらのメイドがしてくれましたわ」
ラクレームが向けた視線の先には少し気恥ずかしそうなクローセさんがいた。
「ほう、詳しいとは知らなかった。実家の食堂でハーブティーを出していたのか」
「いいえ。実家の食堂はハーブティーを出すようなお店ではありません。基本的に出る飲み物はお酒ですから。ただハーブに関しては料理に使うことがあるので、少し知識があるんです」
それを聞いて記憶を掘り起こすとハーブを使った肉料理が美味しかったという覚えがあった。
「よいメイドを雇ってますわね、グリオット様」
「ラクレームの所にもハーブの知識がある使用人はいるだろ」
貴族としてお茶会を開くことは多い。自宅でお茶会を開く際、時期やお茶会のテーマにあったお茶を出さないといけないため、紅茶やハーブに詳しい使用人は基本的に一家に一人はいるはずだ。
「おりますけれども。お父様専属ですから。娘の私が気軽にお願いしてはお父様に怒られてしまいますわ。ですから、そちらのメイドのように気軽にお願いできる方がいるのは羨ましいですわ」
「クローセさん、良かったな。かなり褒められてるぞ」
「そんな大したことしていませんから」
ますます気恥ずかしそうにして、顔を赤らめるクローセさんをラクレームがじっと見つめている。
「ちょっと……いいえ、かなり欲しいですわね」