彼女の真意のかけら
「そんなのお顔を近づけて、怒らなくても……」
「怒らないわけにはいかない」
拗ねた表情を見せるラクレームを地面に下ろす。
自分が怒られていることが納得いかないようだ。
「俺が間に合わなかったり、受け止めるのに失敗していたらどうするんだ。大怪我、いや、死んでいた可能性もある」
「少し落ち着いてください。私も何の考えもなしに飛び出したわけではありませんわ。ちゃんと足から落ちるように考えて飛びましたわ。ですから、グリオット様が間に合わなかった場合、怪我はしましたでしょうけど、死ぬことはありませんでしたわ」
「それを聞いても、俺は考えなしの行動だと思う」
「考えて行動してるのですから、考えなしではないのではありません?」
「言葉遊びをしないでくれ。死なないように行動したのはいい。だが、怪我をしてもいいと思ったのは間違いだ」
「怪我は痛いでしょうけど、それも経験ですわ。怪我自体は回復魔法が使える方に頼めば、すぐに治りますでしょうし」
「……」
ラクレームの考え方に対して、大きな声が出そうになったので、深呼吸をしてラクレームから一歩離れる。
「どうかなさいました?」
「ラクレーム。確かに怪我は治る。回復魔法を使えば、怪我の痕も残らない」
「そうですわ」
「……心配するだろ」
なんと言えばラクレームに伝わるのか分からず、単純な言葉が口から出る。
「俺が心配する。大丈夫だろうかと心が落ち込む。当然、俺以外にも心配する人はたくさん居る。そういう人達の気持ちは考えているのか」
「……」
ラクレームは少し考え込むように腕を組んで目を閉じた。
「何と言葉にすればよいのかしら。心配してくださるのは感謝ですわ。グリオット様に心配される程度に好意を持たれていたのには驚きです」
「好意とかの問題ではない」
「問題ですわ。グリオット様にとって、私は居ない方がいい人間ですわよね」
「そんなことはある……はずないだろ」
俺としては否定する。が、本当のグリオットならと考えた時、言葉が一瞬詰まる。グリオットの性格としてラクレームのように自分を引っ掻き回すような人間は近くに居てほしくないだろう。将来的に妻となることを考えると、可能ならば別の女性、自分に従順な女性をグリオットは望むはずだ。
ラクレームの自分はグリオットにとって居ない方がいい人間という評価は当たっている可能性が高い。
「ともかくだ。二度とあんな危ないことをしないでくれ」
「分かりましたわ。今後は自重することにします。心配されることでご迷惑になることは本意ではありませんので」
ラクレームの本心が僅かに吐露されてたことで、場の空気が重くなる。
「ではでは、お茶にしましょう! レジェス達が準備してくれてますわ!」
「??」
いままでのやり取りがまるでなかったかのように切り替わったラクレームの明るい態度に軽く目眩がした。
重たくなった空気など無視するかのようにラクレームは軽快な足取りで駆けていく。
ラクレームが駆けていく先ではレジェスとクローセさん達がお茶の準備をしていた。