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難は去らない

「あっ、もちろん容姿につきましても、それなりに美男子ですわ」



 ついでという感じで付け加えられた容姿への言葉には何の感情も乗っていない。



「とりあえず、ラクレームが好きな所については分かった。分かったが……そこについては改善していく予定だ」


「ええっ!! そんなぁ! どうしてですの!?」


「どう考えても欠点でしかない要素なのだから、改善するだろう」


「欠点が一つあるくらいが男性として魅力的ですわよ」


「そういう話も聞いたことはあるが、ラクレームが好いている欠点は人として大きすぎる欠点だ。放置は出来ない」


「……残念ですわー。楽しんでいましたのに」



 ラクレームは本当に残念そうではあるが、残念がるだけで必要以上の強制はしてこない。彼女から本日味わった押しの強さからして、我を貫いてくるかと身構えていたのに意外な対応だ。



「人の欠点で楽しまないでくれ」


「なんというか……本当にグリオット様はお変わりになりましたわね。以前はもっと俺様口調でしたわ」


「先ほども言ったが、学校生活を通して成長したんだ」


「人は成長するというのは否定しませんけれども、成長するには短期間すぎな気もしますわね。よほど劇的な出来事や出会いがあったのですの?」


「……まあ、そうだな。人間の一生分くらいの出来事があった気がするよ」



 成長ではなく、乗り移ってしまっている。この出来事はまさに劇的だろう。



「それほどの出来事が? ぜひ、お聞きしたいですわね」


「またの機会にな」



 勘ぐられるような言葉を言ってしまったが、真実を話すことはない。乗り移っているということを知る人間をこれ以上は増やしたくない。アントルにバレてしまった時は心の底から震えた。アントルはまだ保留という形で納得してくれたが、他の人の場合、どうなるかなんて分からない。


 俺がグリオットに乗り移った原因の究明と、いずれ発生する国王暗殺未遂への対応をするためにフォレノワール公爵家嫡男として居続けなければいけないのだ。



「俺から聞いてばかりで申し訳ないが、もう一つ聞きたいことがある」


「あら、なんですの?」


「改めてになるが、この屋敷に来た理由は? ドレスを見せに来た以外にあるんじゃないか?」


「別にありませんわ。婚約者且つ、好きな男性に会いに来るのには口実一つあれば十分。いいえ、本来は口実すら必要ありませんのよ」



 人によっては恥ずかしさで、口籠ってしまいそうな言葉を自信満々に力強く言うラクレームの姿を凛々しく感じた。



「……そうか。野暮なことを聞いて悪かった」


「ええ、野暮でしたわ」


「夕食はどうするんだ? 食べていくんだろう」


「ええ、ぜひ。それから明日の朝食ですけど、パンのジャムはリンゴにしてくださらないかしら」


「いいだろう。準備させる。……ん? 明日の朝食?」



 予想外の単語が出たので聞き返す。



「夕食を食べた後は帰るのでは?」


「しばらくの間、レジェスと共にこちらのお屋敷で過ごさせていただきますわ」



 ラクレームの側に控えているレジェスが頭を下げたのを視界に端に収めながら、俺は空を仰いだ。

 しばらく精神的負担が大きくなる気がする。


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