本来のグリオットの評価
「俺自身もいろいろと鍛えないと駄目だな」
学校でラティウスが強くなることを祈っていたが、ラティウスだけでなく、俺自身も強くなっていく必要がある。これからグリオットの周辺で何があるか詳細には不明であり、前回のような強敵と戦うことになった際、魔法での不意打ちが通じるとは限らない。剣術も魔法も磨いていかなくては不測の事態に対応が出来ない。
行き着く先は国王暗殺未遂事件なのだから、物騒な出来事は避けて通れないだろう。
「グリオット様は大人の女性が好みなのです?」
クローセさんやレジェスと話していたことから変に勘ぐったラクレームが聞いてくる。
「そういうわけではない」
「本当ですの? まあ、私よりも小さい女の子に興味を持たれるよりは良いですわ。大人の女性というなら私も今後成長して大人の女性になれますものね」
前向き思考で俺への問を自己解決したラクレームはレジェスからティーカップを受け取ると、レジェスがいつの間にか運んできていた椅子に座った。
「話を戻して、私が思うグリオット様の良かった所、つまりは私が好きなグリオット様の所をお聞かせしますわ」
「ぜひ、聞かせてくれ」
俺も従者に椅子を持ってきてもらい、座るとラクレームの話を待つ。
「何よりもまずは性格ですわね」
「ほう?」
意外な箇所が出た。
ブラウとマチェスの時にも思ったが、グリオットの本来の性格は決して人に好かれるような性格ではない。扱いやすいという面から見れば、好いている人間は居たかもしれないが、純粋に好意を向けられるような性格ではないだろう。
「自己顕示欲がとても高くて、家柄を誇りに思ってらっしゃる。貴族として普遍な性質ですわね。ですが、グリオット様の場合は、自己顕示欲に見合うだけの実力が色々と欠けていますの」
「ん?」
好きな所を話しているはずなのに、貶されたような気がした。
「決して能力が低いというわけではありませんのよ。平均くらいはあるかと思いますわ。でも、平均くらいしかありませんの。なのに実力に見合わない自己顕示欲を誇っているので、虚勢を張っているように見えてしまいますの。これは私がグリオット様の近くにいるからこそ感じられる部分なのですけど」
「ま、待て。ラクレーム」
「どうかしました?」
「君は今、俺を貶している最中だったりするか?」
「貶すだなんてそんな……純粋に私が好きなグリオット様について話していますのに」
「とてもそんな風には聞こえなかったんだが……」
「まだお話の途中ですもの。判断するのは早急ですわ」
「……」
そうなのだろうかと疑問しか頭に浮かばない。確かにラクレームの口調から悪意のような感じは受けない。楽しく話しているのは確かだと思う。
「話を続けますわね。グリオット様は自分自身を大きい存在だと考えていますが、グリオット様をよく知る私からすると、そこまで大きい存在ではないですの。グリオット様が自身を体の大きなゾウと思ってらっしゃるとすれば、私からすれば実際は子犬くらいですの」
やはり貶されている気しかしない。
「私はそんな自己の評価と実態が、かけ離れているグリオット様の姿が、とても愛らしく思っていますのよ」
「……」
ラクレームが頬を若干赤らめながら恥ずかしそうにしているのを見て、俺はおそらく初めてグリオットに同情した。
俺が知らない所でグリオットも苦労をしていたんだな。
グリオットは他人に弱みを見せるような性格ではなかっただけに、このような苦労は沢山あったのかもしれない。