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まだ居た

 学校から屋敷に帰って来ると、庭でお茶を楽しんでいるラクレームの姿があった。



「あら、おかえりなさいませぇ」



 俺を見つけたラクレームが小さく手を降ってくるが、俺は状況整理が出来ずに固まっていた。固まっていた俺の側にクローセさんが小走りで寄ってくる。



「お帰りなさいませ、グリオット様。手荷物をお預かりします」


「……た、頼む」



 教本が入った手荷物をクローセさんに渡しつつ、止まっていた思考を再開させる。



「クローセさん。ラクレームはどうしてまだ屋敷に居るんだ」


「どうしてと言われましても……今朝、グリオット様が乗っていかれた馬車で、そのまま屋敷まで戻ってきました。それから屋敷内を見回ったり、我々と昼食を共にしてくださったり、色々と交流を」


「帰ったのではないのか」



 今朝、現れたのは俺にドレスを見せに来たという理由だったので、俺を学校まで見送った後はそのまま自分の家に戻っていると思っていた。



「婚約者の目の前で他の女性と密談ですの?」



 ティーカップを手にしたままラクレームが近づいてくる。



「密談ではない。状況を確認していただけだ」


「状況だなんて。そんな細かいことを気にする方ではなかったですのに」


「学校での生活で色々と培った結果だ」



 ラクレームを相手に本当のグリオットと、俺が演じているグリオットの差で感じる違和感は誤魔化しきれない。なら、下手に取り繕うよりも、成長した結果だと押し切った方がいい。

 ラクレームは口を閉じて、しばらく考え込むと小さくため息をついた。



「人として良い方向に成長されたとは思いますが、私としては以前のグリオット様のままがよろしかったですわ」


「以前? ラクレームとしてはどのような俺であれば良かったんだ?」


「お聞きになりたいですの? ですの?」



 小さい体を大きく動かして、ラクレームが何故か嬉しそうに飛び跳ねる。手にしているティーカップから中身がこぼれないかと焦ったが、いつの間にかラクレームの手からティーカップが消えていた。落としたのかと下を見てたが、落ちていない。気になって広く周囲を見ると、いつの間にかラクレームの背後に先程までラクレームが手にしていたティーカップを持った若い女性の執事が立っていた。


 年齢はクローセさんと同じか、少し年上のような大人びた雰囲気がある。身長は俺よりも高く、顔立ちは凛々しく、中性的だ。目つきが細く、鋭く、表情が無表情のため、冷たい印象だ。

 一度、目にすれば記憶に残るはずの彼女を俺は今日、始めて目にした。



「あらあら、グリオット様。今度はレジェスに目移りですの。私は寛容な婚約者のつもりですけど、僅かな間に目移りされるのはさすがに気分を悪くしますわー」


「だから、そういうわけではない。彼女……レジェスが急に現れたように見えたから」


「……驚かせたのでしたら、申し訳ありません」



 高い中性的な声での謝罪と共にレジェスは深く頭を下げた。



「もしかして今朝から屋敷にいたのか」


「はい、グリオット様の寝室にラクレーム様と一緒に」



 まったく気付かなかった。

 ラクレームの印象が強すぎたせいかもしれないが、だとしても視界にいることをずっと気付かなかったのはレジェスを称賛するよりも、俺自身の情けなさを大きく感じてしまった。

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