過去の俺は
最近はグリオットとしての振る舞いにも慣れてきたはずなのに、今朝の騒動のせいで行動がブレてしまっているようだ。
「他人ではない。お前達の感想だからこそだ」
誤魔化そうと思いつきで言った言葉だったが、ブラウとマチェスには効果てきめんだったようで、嬉しさで涙目にまでなっていた。
「そこまで思っていただけているとは嬉しい限りです!」
「私、今の言葉を一生忘れません!」
「さすがに大げさだ」
最近、ブラウとマチェスのグリオットへの接し方を見ていて、疑問に思うことが多い、俺から見えていた学生時代のグリオットは高圧的で自分勝手で、親の権力を利用して我が儘に行動していた。よく絡まれていたせいもあって、好意的に思ったことはほぼない。
そんな性格なので、周囲にいる人達はグリオットの性格に我慢しつつ、フォレノワール公爵家に近づくためにとグリオットと仲良くしているのだと思っていた。
しかし、少なくともブラウとマチェスからはグリオットの家柄だけが目的のような感じを受けない。確かな親愛を感じる時がある。
俺が知らなかっただけで、グリオットには人に好かれるような要素はあったのだろうと考える。
人に好かれる要素があったからこそ、ラクレームにあそこまで強烈に迫られているのだろうとも言える。
「そろそろ教師が来るぞ。自分達の席に戻れ」
「はい、失礼いたします」
二人が席に戻ったところで、俺は若い頃の自分自身であるラティウスの席方向へ視線を移す。そこには誰も座っておらず、近くの席にいるトルテが物悲しそうに俺と同じく視線をラティウスの席へ送っている。
数日前からラティウスは家の事情だという理由で学校を休んでいる。どのような事情なのかは教師からは教えられていないが、俺は俺自身の過去のことなので、知っている。ラティウスは父親の知り合いの元で剣の修行を行っているはずだ。クローセさんが生きていることで、俺の知る過去とは違う状況になっているために、今のラティウスが同じ行動をするか、不安はあったが同じように行動してくれたようだ。
この頃の俺はクローセさんを救えなかったことで、自分自身の力不足を痛感していた。だから、今よりも少しでも強くなろうと父親に相談したところ、知り合いの元での修行を提案された。学校を辞めることは許されなかったため、確か一ヶ月間の期限付きでの修行だ。
これから起こる数々の出来事を乗り越えていくために、ラティウスには強くなってもらわないといけない。可能なら本来の俺よりも強くなってくれと願う。