学校で一時の休息
学校に到着して、ラクレームから解放された俺は自席に着くと安堵して大きく息を吐いた。
俺の疲れた様子を見て、ブラウとマチェスが駆け寄ってきた。
「お疲れのようですが、どうかなさいましたか?」
「早朝から厄介な客人が来たせいでな。かなり精神的に疲労した」
「グリオット様の屋敷に早朝に訪問とは……それだけでかなりの失礼に当たりますよ! 誰なんですか、そんな不届きな人物は」
「ラクレーム」
「っ! ……」
ラクレームの名前を聞くと、ブラウとマチェスは揃って困ったような表情を浮かべると視線を俺から反らした。この反応からして二人もラクレームのことは正しく知っているようだ。グリオットの周辺にいるとなれば、必然的にラクレームとも知り合うこともあっただろう。思い返せばラクレームからもブラウとマチェスの名前は出ていた。
「それは大変でしたね……」
マチェスが小さな声で労ってくれた。
「正直、今日、学校へ来るか迷ったほどにあの短時間で疲れた。しかし、学校に行かないと解放されないと思い、気力を振り絞って登校してきたというわけだ」
「ご苦労さまです。何かお飲み物を持ってきましょうか」
ブラウが気を使ってくれたが、今から食堂に向かわせるわけにはいかないので遠慮をする。
「飲み物は大丈夫だ。それより聞きたいんだが、二人から見て、ラクレームはどういう人物だ?」
今後、婚約者であるラクレームと付き合っていく上で、アントルから受け取った情報以外として、同年代から見た彼女の情報も欲しい。ブラウとマチェスはグリオットの近くでラクレームと関わっているので、新鮮なことが聞ける可能性が高い。
「どういう人物……ですか?」
「俺に気兼ねすること無く、素直な感想を言ってくれ」
ブラウとマチェスの二人は同じポーズで悩んだ後で、先にブラウが口を開いた。
「ラクレーム様について、失礼ながら言わせていただくと、言動が貴族とは思えない場面が多々あります。人というよりも、我が儘な猫と相対しているような感じです」
ブラウは同じ貴族の息女として、ラクレームに思うことがあるようで、言葉に怒気が混じっている。
「猫か……。合っているかもな。人のベッドに断りもなく、入ってくるなんて猫くらいしかないだろう」
「ベッド!?」
ブラウが驚きの声を上げた。
ブラウの声にクラス中の視線が集まってしまう。
「ラクレーム様がグリオット様のベッドに入り込んだってことですか!?」
「落ち着け、ブラウ。正確言えば、俺がかけていた毛布の上から、俺の腕を枕代わりにして寝たふりをしていたんだ」
「正確に言っても同じですよ!」
「同じか? そうなのか? マチェス」
「ええ、まあ、ベッドに入り込んだという事実は変わらないかと。それはそうとして落ち着けよ、ブラウ」
「……ごめんなさい。婚約されているお二人とはいえ、婚姻はまだまだ先のはずですから……つい」
「婚姻か。早くても五、六年は先だろう」
グリオットが結婚していたという話は聞いた記憶はないので、追放されるまでは結婚はしていなかったはずだ。当時の俺がどれほど世間に疎かったとしても、国で有数の貴族だったフォレノワール公爵家の長男が結婚するならば、その話を耳にしていたはずだ。