無邪気?
ちょっと体調よろしくなかったので更新遅れました・・・
食堂での食事も不気味なほど静かに行われた。
ラクレームとは対面で座る形で食事をしていたのだが、彼女から何か話題を振られることがなく、気まずい空気を感じて俺の方から話題を振っても軽く二言三言で会話が終わってしまう様だった。食事の最中でラクレームが終始していたことは俺の観察だった。俺の食事をする動作を観察する眼差しは俺に朝食の味を分からなくするくらいの緊張感を与えてくれた。
食後、学校へ行くために馬車へ乗ると俺の横の座席にラクレームが乗り込んできた。
「ラクレーム?」
「学校まで一緒に行きましょう。グリオット様の学び舎をちゃんと見ておきたいですし。構いませんわよね」
「それは構わないが……ラクレームは学校には行ってないんだよな。興味はあるのか」
アントルから受け取ったラクレームに関する資料には、彼女が学校へ行かず、実家に教師を招いて勉学を学んでいると書いてあった。貴族の息女だけが通う学校が国内に存在している。俺が通っている軍の幼年学校ではなく、一般教養から貴族としての礼儀作法を学ぶことが出来る学校だ。
ラクレームの年齢的にも、その学校へ通っていてもおかしくはない。
「興味は多少ありますけれども……どうも私は同年代の方々とは相性が悪くて。たまにお呼ばれするお茶会でも嫌われておりますから。学校に通っても、きっと一人ですわ。なら、家に教師を招いて自由気ままに学んでいきたいですわね」
人によっては悲しい発言だったと感じるが、当のラクレームは気にしている様子はない。
「私のことよりも、グリオット様の学校での様子をお聞きしたいですわ。お友達は増えましたか。いつも一緒にいるバックハス子爵家のお二人をお友達に数えては駄目ですわよ」
「何故だ? ブラウとマチェスも仲が良い友人だぞ」
「お二人はちょっと……グリオット様に対して敬愛の気持ちが強すぎますわ。悪いことではないですわよ。でも、お友達と言われると私的にはちょっと」
ラクレームの言う通り、ブラウとマチェスは友人というよりも、家来のような感じが強い。
「ブラウとマチェス以外か……いないな」
俺がグリオットの体に入って以降、 学校でブラウとマチェス以外で親しく話しかけてきた生徒はいない。生前の俺のおぼろげな記憶でもグリオットがブラウとマチェス以外の生徒と一緒にいるような光景は記憶ない。
「そこは私の知るグリオット様ですわね」
「ん? どういう意味だ?」
「学校へ行かれて、少し変わってしまったのかと思ったのですが、変わってないところもあって安心しているのです」
「友人が出来ないことで安心されるのは……」
安心してもらえるのは良いことだが、その理由が新しい友人が出来ないことなので喜べない。
「友人が出来ないことが当たり前のように言われるのは、気分が良くないぞ」
「申し訳ございません。でもでもですよ。グリオット様の性格的に公爵家という家柄に寄ってくる方々は居ても、ご友人となる方はいないと私は考えているのですよ」
「今、私は貶されているのか」
「そんな貶すだなんて……本当のことを言ってるだけですわ」
「……」
グリオットよ。お前はラクレーム嬢と日頃、どのように相対していたんだ。
心の中で答えてくれるはずもない相手へと呼びかけてしまうくらい、俺は困惑している。
ラクレームからグリオットに対する好意に裏は感じない。純粋にグリオットを好いているだという印象だ。
だが、言葉の端々からグリオットへの棘も感じている。
無邪気な好意、感想と評すればいいのだろうか。
生前、出会ったことがない性質の人物なので、次はどのような行動に出てくるのか想像出来ない。
「準備がよろしければ、出発いたします」
馬車を運転する御者からの声で、困惑して止まりかけていた思考を再び動かす。
「あ、ああ、出発してくれ」