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服を褒めることは

 背後から抱きつかれて、倒れそうになるのをなんとか耐える。



「ラ、ラクレーム、離れてくれ」


「どうしてです?」


「話をしたいんだ。抱きつかれたままだと話がしにくい」


「あら、私は構いませんわ」


「俺が構うんだ。頼む」


「そこまでお願いされたら、しょうがないですわね」



 ラクレームは残念そうな表情を浮かべながら、俺から離れた。

 俺はようやくきちんとラクレームと対面して、彼女を見る。

 アントルがくれた情報ではラクレームはグリオットよりも歳が四歳下だということだ。確かに顔立ちや体格的にも学校の同級生女子達と比べて、だいぶ幼い。言動も子供っぽく、自由奔放さがある。普通家庭の少女なら、それでも問題ないとは思うが、伯爵貴族の少女としてはかなり規格外な自由奔放さだ。

 俺にじっと見られていることに気付いたラクレームは着ているドレスを見せるように、その場でクルッと一回転をする。



「どうですか? このドレス。昨夜、オーダーしていたのが届きましたの」


「……あ、ああ、似合ってるんじゃないか」


「真面目に感想を言ってください!」



 曖昧な俺の返事がまずかったようで、ラクレームを怒らせてしまった。



「感想と言われても、女性の服装を褒めたりするのは苦手でな」



 服を褒めることは俺が生涯、学び、成長が出来なかった事柄だ。

 妻や子供達、孫の衣装にも曖昧な褒め言葉しか送ることが出来なかった。



「あら? そうでしたの? 以前は呆れながらも的確に褒めてくださいましたのに」


「っ!? ぐ、偶然だろう」



 服を褒めることについて、俺はグリオットに負けていたようだ。



「残念ですわ。少しでも早くグリオット様にドレスをお見せしたくて、早馬で来ましたのに」


「それは……期待を裏切ってしまってすまない」



 グリオットに褒められることを期待していたラクレームに応えることが出来なかった罪悪感から謝罪を口にする。

 が、謝罪した直後にしまったと痛感する。グリオットはこんなに簡単に謝罪を口にする性格ではない。



「……」



 ラクレームから不審に思われてしまったようで、彼女は無言で見つめてくる。



「さ、さて、せっかく来てもらったが、私はこれから学校でな。屋敷を出なくてはいけないのだ」


「……存じてますわ。朝食と学校へ向かうまでの短い時間を一緒に過ごせればとも思っていましたの」


「そうかそうか、なら朝食を食べようじゃないか。着替えるので、先に食堂へ行っていてくれ」


「……」



 ラクレームは考え込むように口元に手をあてる。



「どうかしたか?」


「いえ、それではお先に食堂へ行っておりますわ」



 ラクレームは深いお辞儀をして平静に部屋を出ていった。つい先程まで騒ぎ立てていただけに、静かな様子がやけに不穏だった。

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