目を覚ますと
新しいキャラーーー
寮から学校近郊の屋敷へと引っ越しを行い、屋敷での生活にも慣れ始めた頃、災難は唐突に現れた。
朝、目を覚ますと俺の腕を枕にして見知らぬ金髪の少女が寝息を立てていた。
「っ!?」
驚きながら、俺は自分がちゃんと自分のベッドで寝ていたことを確認する。寝ぼけて誰かのベッドで寝ていたわけではない。
「誰だ……」
少女の見た目は俺よりも何歳か年下に見える。ピンク色の綺麗なドレスを着ているので、どう考えても寝る時の格好ではない。
この子が誰なのか、何時、俺のベッドに潜り込んできたのか。疑問は尽きない。
だが、一人で悩んで考えるよりも起こして本人に聞いた方が早いと判断して、俺は寝ている少女の体を軽く揺すった。
「起きろ」
しかし、体を揺すられても、少女は寝息を立て続けていた。
「おい、起きてくれ」
二度目は強めに揺すってみても、少女の寝息は変わらない。
「……起きてるな?」
体に衝撃を受ければ、多少なりとも呼吸に乱れが起こってしまうはずだが、少女の寝息、呼吸は変わらなかった。これは少女が寝ている演技をするために、寝息を立てているためだと勘づいた。
「あら? 思っていたよりも、早くバレてしまいましたわね。もう少し、グリオット様の腕枕を堪能していたかったのですが」
俺に寝ている演技を見抜かれた少女はパチリと明るい薄い茶色の瞳を開けた。その瞳はじっと、俺を見つけており、瞬きをしない。
「ああ、駄目ですわ。ずっとグリオット様の顔を見ていようとしましたが、目が乾いて限界です」
少女は残念そうに瞳を閉じると上半身を起こした。腕枕としての役目から解放された俺の右腕には少し痺れが残っていた。俺は右腕の痺れを直そうとマッサージをしながら、少女が誰かなのかを考える。
グリオットの知り合いなのは間違いない。だが、俺がグリオットの体に入ってから初めて会う子だ。学校の生徒ではない。朝からベッドに侵入してくるような生徒が学校内に入れば、間違いなく出会っている。
だとすれば、フォレノワール家の関係、つまりは貴族の息女ということになるが、これまで行われた貴族達の集まりでも出会っていない。
誰だ、この子は。
少女の態度からグリオットとはただ知り合いではなく、かなり親しい間柄だという印象を受ける。
俺が少女の正体を考えながら、少女をじっと見ていると少女は演技のような仕草で顔に手を当てて、恥ずかしそうに顔を反らした。
「そんなに見つめられると、照れてしまいますわ」
頬は赤くなっているように見えるが、言動がワザとらしく見えてしまい、少女の本心かどうか判断できない。
俺が少女の正体が分からずに困っていると、部屋の扉がニ度ノックされた後、ゆっくりと開けられた。
わずかに息を切らしたアントルが部屋に入ってきた。
「お話を聞いて、すぐに駆け付けたのですが、貴方様の方が早かったようですね。ラクレーム様」
「アントル。朝から夫婦の寝室にノックをしたとはいえ、返事を待たずに入ってくるなんて少し無礼よ」
「申し訳ありません。時間が惜しかったもので……」
ラクレームと呼ばれた少女の言葉と朝早くから現れたアントルに混乱を覚えながらも、アントルが飛ばしてきた視線の意味を汲み取り、俺はベッドから逃げるように飛び出すとアントルに近づく。俺がベッドから飛び出した勢いで少女がベッドの上で転がってしまうが、構っている余裕はない。
「アントル」
「説明は手早く済ませましょう。一旦、部屋の外へ」
アントルに指示されて部屋の外へ出ようとした時に少女から声がかかる。
「あらあら、未来の妻を放置して、執事と密談ですかぁ?」
俺がどう反応すればいいのか困っている隙にアントルが返事をしてくれる。
「重ねて申し訳ありません。緊急でグリオット様にお知らせしなくてはいけないことがありまして。ラクレーム様は、少々この場でお待ち下さい」
「……まあいいわ。私がグリオット様の残り香を堪能している間に用事を済ませてね」
少女の言葉に俺の背筋がゾクっと震えた。俺ではなく、グリオットの体が少女に対して軽い拒否反応を示しているように思えた。