若い俺との問答2
「くっそぉ、避けるなぁ」
「危ないから避けるわよ」
「落ち着け、ブラウ。元平民からの評価を気にしてはいない。が、訂正はしておこう」
立ち上がってブラウとトルテの間に腕を伸ばして、ブラウの動きを制限する。
「メイドを含め我が家に仕えている者達を酷使したりするものか。酷使したところで仕事の質があがるわけではない。逆にくだらない失態など増える」
「……最近、思っていたけど、あんたって、そんなこと言う性格してた?」
トルテの指摘に対して、鋭いと心臓を高鳴らせるが表情には出さない。
「お前が気づいていなかっただけだろ。たかが数ヶ月、同じ教室にいただけで、俺の知ったなどと思うなよ」
「それもそうね」
トルテは俺に背を向けると自分の席へと戻っていく。
「ラティウス、聞きたいことは聞いたし、戻るわよ」
「いや、まだ納得はしてねぇぞ」
「私だって完全に納得したわけじゃないけど、エッケンさん達が文句を言っていないのに、これ以上、私達が口を出すのは筋違いよ」
「……」
トルテの意見をラティウスは頭では理解しているが、それでも気持ちとしてはモヤモヤが残っているようで、厳しい表情を続けている。
「相方は戻ったぞ。お前も自分の席に戻って、落ち着いて物事を考えたらどうだ?」
「クローセさんに何かしたら許さねぇからな」
「メイド一人に対して何かをするほど、暇ではない」
ラティウスはまだ何か言いたそうな表情のまま、自分の席へと戻っていった。
俺は問答が一段落して、内心でホッとする。
これでクローセさん本人が屋敷の仕事に不満などを言わない限り、ラティウス達が突っ掛かってくることはないだろう。
今回の件は全て上手く収まった。
フレスのケスター伯爵家は敵対していたマアス家からの告発により、今まで行っていたことが表沙汰になって、裁判を待つ身だ。
例の別荘も捜索されたことで、状況証拠がより多く見つかっており、有罪は免れない。良くて爵位の降格、悪くて剥奪になるだろう。それに加えて多くの財産没収の上で、遠方へ追放となるはずだ。死罪ではないが、歴史ある貴族として積み上げきたプライドを傷つけられたことは死よりも辛いだろう。
副産物的として良かったのは、俺、グリオットとラティウスの関係が悪化したことだ。先日の授業以降、グリオットとラティウスは仲が良いのではという噂が時々流れていた。貴族主義であるフォレノワール家の跡取り、グリオットとしては元平民のラティウスと仲良くするわけにはいかなかったので、良い展開になっている。
これからも大変な出来事は多そうだが、クローセさん達の誘拐事件は一件落着と言っていいだろう。
次回、新しいキャラと新章