バレ3
「バレているようだから、一つ頼みがある」
「なんでしょうか」
「俺が君達姉妹を助けたということは秘密にして欲しい」
「それはアントルさんからも言われましたが、どうしてですか。こういうのは公表して、お家の評判などを上げるものなのでは?」
「評判を上げるためにしたことではないし、今は評判を上げたくない事情があるんだ。顔を隠していたことから察してくれ」
フォレノワール家として貴族から平民を助けたという話はよろしくない。世間一般的には評判は上がるかもしれないが、貴族間での評判は逆に下るだろう。
「分かりました。お家の事情があるのですね」
「分かってくれたようでなによりだ。で、君はこの屋敷で雇われることになるわけだが……住み込みになるのか?」
「そのように聞いています。屋敷の掃除やグリオット様の身の回りのお世話をするようにと」
「っ!? ちょっと待て? 身の回りの世話? 俺はこの屋敷には住んでいないぞ」
「その辺りの事情については私から言わせていただきます」
アントルが口を挟んできた。
「グリオット様には学校の寮からこちらの屋敷へ寝食する場を移動していただきます」
「寮を出ろと? だが、学校の規則で学生は寮暮らしだと決められている」
「そのくらいの規則なら公爵家の力で特例扱いとして押し通せるでしょう。実際、今もかなりの特例を寮で行っていますから」
アントルの話に対して確かにと頷く。規則とは異なる一人部屋に加えて、使用人達の部屋を公爵家の力で用意させている。かなりの特別待遇だ。
「学校の規則はどうにでもなるのは分かったが、俺が寮を出て、この屋敷に移る理由はなんだ」
「複数の理由はあるのですが、第一に今後、今回のようなことを行う際の拠点として、この屋敷を使用したいからです。学校の寮では相談事もしにくいですから」
「俺がまた同じような行動をすると考えているのか、アントル」
「可能性としては十分にあると考えました。失うと分かっているモノを放っておくことはできないでしょう」
「……一度、行動した以上は彼女だけで良いとは思わないさ」
淡い想いを向けていたクローセさんだけを助けて満足では自己偽善がすぎる。本来、亡くなっていたはずの一人を助けたのだから、この後も可能な限り、助けていかなくてはならない。それがクローセさんを助けるために行動した責任だ。
「なんだかアントルの考えたとおりに行動させられている気がするな」
「私はグリオット様のやりたいことを考えて、動いているだけです」
「いろいろと抜かりないよな、お前は」
アントルが協力してくれていることがあらためてありがたい。
「あのー、結局、私は住み込みでよろしいのですよね」
「住み込みで頼むよ。俺は数日中にこちらへ引っ越してこよう」
「分かりました」
「クローセさん、一人だけでこの屋敷を管理するわけではないから、その点は安心してくれ。少なくとも今、学校の寮に居る他の使用人達も一緒に移ってくる。週に一日は休みを与えるから、定期的に家には帰ってあげるといい」
「お気遣いありがとうございます」