バレ2
「なんでバレたんだ!?」
「彼女いわく声だそうです。あの夜に聞いた声と私の声が同じだと分かったようでした」
「声って……否定はしたんだろ」
「もちろんです。ですが、彼女の中では既に真実となっているようです。雇われることを承諾した理由も彼女としては恩返しの意味合いがあるのでしょう」
クローセさんに声だけで人物を言い当てる特技があったなんて知らなかった。
「待て、声で分かったとクローセさんが言ったんだよな」
「はい」
「……俺のこともバレているのか」
「屋敷内で何度かグリオット様は声を発していますし、そう考えていただいても良いかと」
クローセさんを見ると彼女は俺に対して深くお辞儀を返した。
「そういう情報はもっと早く伝えてくれ。バレないように術を考えられたかもしれない」
「私としては彼女をこの屋敷に雇い入れることが第一と考えましたので、我々が彼女を助けたことがバレたことは些細な問題と考えています」
「仮面で顔を隠した意味がないだろ」
「顔を隠したのは侵入したのがグリオット様であると、フレス家の人間にバレないためです。彼女にバレないためではありませんでした。もちろん、バレない方が良かったのは事実です」
「事が終わったからにはもう隠す必要はないというのか?」
「いえ、隠し通すことは必要です。彼女には事情をある程度説明し、口止めしておくのが良いでしょう。あまり言いふらすような方には見えませんが、念の為です」
「……クローセさんから俺達の話が広まらないようにするためにも、雇っておく必要があるってことか」
「先ほども言いましたが、他人と接触する機会を限定すれば、それだけ危険性は下がります」
「……」
アントルの話をゆっくりと整理して考えた後、俺は一度小さく頷く。
「アントルが判断したことだ。大きな間違いはないか」
俺はアントルを信用してクローセさんのことを受け入れることにした。
「クローセさん、こっちへ来てくれ」
「はい、なんでしょうか。えっと、御主人様とお呼びすれば?」
クローセさんが歩いてきながら、呼び方について聞いてきた。クローセさんに御主人様と呼ばれると気恥ずかしさを異様に感じてしまう。
「アントルと同じようにグリオット様でいい。御主人様だと誰のことか、分からないからな」
「分かりました、グリオット様」
様付けでも気恥ずかしさは感じてしまうが、メイドして雇う以上は、俺に対して主人として彼女には接してもらわなくてはならないので我慢だ。
「君は……その分かっているんだよな」
「何のことでしょうか?」
「俺が君を……君達姉妹をあの夜、助けたってことをだ」
「そう言われるということは、やっぱりグリオット様なんですね。声や雰囲気からそうなんじゃないかって思ってはいました」
「声や雰囲気で分かるものか?」
「分かりますよ。お店で長くお客さん達を相手にしていたおかげですかね。私、人の声を覚えやすいんです。一度聞いたら、ほとんど聞き間違えません」
「かなり特異な才能だと思うぞ」
少なくとも生前の人生で同じ才能を持った人物と出会った記憶はない。