事件後の学校
ケスター家の地下施設からクローセさん達を救出して数日が経った。
俺はクローセさん達を救出した翌日だけ学校を休み、次の日からは怪我が治るのを待たずに学校へ出席した。
フレスの様子が気になっていた。
決して公には出来ない屋敷の地下施設へ侵入され、悪魔を呼び出す儀式の本と生贄にする予定の二人に逃げられた。加えて、警護役でもあったエーブが殺されている。
侵入者に対する怒りと、自分達がしていることが公になるのではないかという不安で精神が不安定になっているのではないだろうか。
錯乱したフレスがクローセさん達に何かしても対応出来るようにアントルを経由して、クローセさんの家周辺の警戒を警備隊へ依頼している。クローセさん達も昨日の今日であまり外は出歩かないだろうし、二人が危険な目に再び遭う可能性は低いとは思う。
学校の正門に辿り着くと我先にと駆け寄ってくる二人の影があった。
ブラウとマチェスだ。
「グリオット様! ご病気と聞きましたが、もう大丈夫なのですか!?」
「無理はなさらないでくださいね!」
「心配をかけたな、二人共。病気というか微熱だ。家の者達が大げさに騒いだだけだ。もう治っている」
俺の言葉に二人は胸を撫で下ろした。
「昨日は学校で何か面白いことはなかったか?」
教室へ向かいながら二人に学校の様子を伺う。
「いえ、特には……そうだ、元平民二人が遅刻してきましたよ。情けない奴らですね。聞こえてきた話によると、夜遅くまで街に居て遊んでいたらしいですよ。それで寝坊です。まったく寮の門限も守らないとはだらしない」
マチェスが嫌味ったらしく口を横に伸ばして話す。
ラティウスとトルテはクローセさんを探すために街中を夜まで走り回っていたのだから、疲れて寝すぎてしまうのも無理はない。むしろ遅刻しながらも学校へ来たのを褒めるべきだとは思う。そう思うは俺がいろいろと事情を知っているせいで、事情を知らなければ、ラティウス達が夜遊びをして寝坊したのだと勘違いするのも仕方ない。クラスメイト達に本当の事情を話せるほど、二人はクラスに溶け込めていない。
「まあ、そう言うな。元平民にここの学校生活、特に貴族クラスの生活はきついのだろう。羽を伸ばすくらいのことは見て見ぬしてやれ」
「最近、元平民に対して、やけにお優しいですね、グリオット様」
ブラウの疑問に俺は首を左右に振る。
「優しさではない。俺はこのまま元平民が堕落して、学校をやめることを願っているだけだよ」
「そうですよね。あんな奴ら、すぐにでも学校をやめるか、せめて平民クラスへ行くほうが身の丈にあっています」
「まったくそう思うよ」
俺の知る歴史としては、今後、色々と意地悪なことを受けながらも貴族クラスで過ごして、学校を卒業することになっている。なので、今、俺達がどうこう言おうとラティウス達は学校生活をやり通すのだ。
教室に付くとラティウス達は既に自分達の席に座っていた。
俺が教室に入っても、ちらりと視線を向けられただけで、ラティウスからの特別な反応はない。
どうやら夜道で出会ったのが俺だとは気づいていないようだ。