達成
ほぼ会話な回
「候補となるような家はあるか?」
「マアス伯爵家が良いかと思います。ケスター伯爵家とは世代を渡り、仲がよろしくありません。加えて、現在のマアス家の当主様は人徳者との噂です。貴族の義務の一貫として平民への福祉活動を積極的にされています」
「人柄もよさそうか……。資料を想定以外の使い方をされて悪用されたら問題になるからな。しかし、アントル。すんなりと名前が出てきたということは事前に調べていたな」
「当然の調査でございます」
「当然じゃない。俺はクローセさんを助けることだけで、頭がいっぱいだったからな。告発するための手段については二の次だった。一人だったら、しばらく困り果てていただろう。人生を一度全うした経験があるというのに情けない。思慮深さや計画性についてはまったく成長出来なかった人生だったのかもしれないな」
「話を聞いた限り、あなた様は国王にまで成られた方なのですから、ご自分を卑下なさるのはお辞めください。情けない国王に統治されていたと、国民として思いたくありません」
「……そうだな。俺としても良き王だったという自負もあるし、卑下はしないでおこう。資料……いや、エーブの日記はどこだ?」
「こちらのテーブルに置いてあります」
アントルが手をかざした方を見るとテーブルの上に持ち出してきたエーブの日記と布で包まれた悪魔を呼び出す儀式の本が置かれていた。
「アントル、エーブの日記を送る準備を整えてくれ」
「承知いたしました。日記は送るのは決定といたしまして、こちらの触った感じですと本のようですが、こちらも送りますか?」
「それは悪魔を呼び出す儀式の本だ。悪魔を呼び出すだけあって、不気味な本でな。直接触るのは危ないと布で包んでる」
「手にした瞬間に感じた不気味さの正体はそれでしたか」
「その本は人の手を行き来させるには危険すぎる。燃やすなりして処分したいが、フレス家の罪を証明する資料でもあるから、フレス家が罪で裁かれるまではこちらで保管しておきたい」
「承知しました。鍵付きの木箱に保管しておきましょう。どの程度、効果があるか不明ですが、魔法による封印処置もしておきます」
「頼む」
今後の基本的な方針が決まったところで眠気が襲ってきた。
一度仮眠を取ったくらいでは、まだ疲れが取れていないようだ。
「今日は忙しい日でしたでしょう。もうお休みになられると良いかと思いますよ」
「そうさせてもらおうか。ここでこのまま寝ても問題はないよな」
「構いません。学校の方には休むように連絡を入れますので、ごゆっくりとお眠りください」
アントルの言葉に安心して、俺は枕に頭を沈めるとゆっくりと目を閉じる。
やるべきことを成し遂げた達成感に心を満たして、沈む意識に心身を任せた。