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引き継ぎ

 俺は馬車の客室の扉を大きく開けると、ラティウスに中を見るように促す。



「クローセさん! リヒテ!」



 ラティウスは二人の名前を叫びながら、客室の中へと飛び込んでいった。客室へ入ったラティウスは二人がそれぞれ客室のソファで静かに寝息を立ているのを見て、安堵したように大きく息を吐いた。



「良かったぁぁ」



 二人の無事を確認して安心したラティウスは、それまで張り詰めていた気を解いて、その場で脱力して座り込んでしまった。

 今までクローセさん達を探して、走り回っていたのだとすれば疲労は相当溜まっているはずだ。



「気を抜くのは早いぞ」


「え?」



 完全に緊張感が抜けきったラティウスの声に若干の苛立ちを覚えてしまう。若い頃の自分の情けなさに対する苛立ちだ。クローセさん達が無事だったことを喜ぶのはいいが、ラティウスからすれば、俺はまだ見知らぬ怪しい人物だ。怪しい人物が身近にいるのに完全に緊張を解いてしまうのは危なすぎる。



「……っ」



 ラティウスに文句を言いたくなる気持ちを抑える。今は何よりもクローセさん達が優先だ。ラティウスと口論をしている暇はない。



「君にはその二人を家まで送り届ける役割があるだろう」


「あ、ああ、そうだな、そうだ。早く二人の両親を安心させてやらないと」


「この馬車で家の近くまで送らせる。そこからは君が運ぶんだ」


「それは助かるが……お前は誰なんだ? 二人を助けてくれたのか? どうして?」


「質問には答えられない。御者も同様だ。君等を降ろしたら、すぐに走り去るようにする。何か聞きたければ姉の方に聞くといい。少しは事情を話せるだろう」


「よく分からない奴だな。でも、ありがとう。二人を助けてくれたことには変わりない。本当にありがとう」


「感謝する余裕があるなら、腕を磨いておくことだ。街のゴロツキを倒せる程度で自信をつけるなよ」


「随分と上から目線じゃないか。そこまで言われる筋合いはないぞ」


「……」



 未来の自分自身なので、筋合いは十分にある。が、それを伝えるわけにはいかない。



「行ってくれ」



 御者のアントルに指示をする。



「あなた様はどうなさいますか?」


「倒れている追い剥ぎ達を拘束しておく。放置すると起き上がるかも知れないからな。その後は近くで休んでいるから戻ってきてくれ」


「承知しました」



 俺が馬車の客室の扉を閉めると馬車が動き出して街中へと消えていった。



「さっさとこいつらを縛り上げて、休ませてもらうか」



 追い剥ぎ達が持っていた紐や着ていた服などを使って、追い剥ぎ達を縛り上げた後、俺は近くの建物の壁に寄り掛かるようにして座り込み、アントルの馬車が戻ってくるのを静かに待った。


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