託す
ラティウスが気合の乗った声を発して、追い剥ぎの一人に斬りかかる。
続くように剣戟と追い剥ぎ達の荒々しい声が響いた。
追い剥ぎ達は全員ラティウスへ向かっていたようなので、馬車の包囲が解かれた。
「どうしますか。今なら強引にこの場を走り抜けることが出来ますが」
「待機だ。ラティウスが追い剥ぎ達を倒したら、あいつにクローセさん達を引き渡そう」
「なんと言って引き渡すおつもりです?」
「助け出したから後は任せると素直に言うさ」
誘拐犯役としてラティウスにワザとやられる選択肢も、一瞬考えはしたが、助けられたことを知っているクローセさんがいるので、そんなことをしては状況が混乱するだけになる。この場でラティウスと長く関わると、俺がグリオットであることがバレる可能性もあるので手短に済ませたい。
アントルと話をしていると剣戟の音が止んだ。馬車の客室の扉から覗ける範囲ではどのような状況なのか正確に把握出来ないので、アントルに確認を頼んだ。
「アントル、状況は?」
「追い剥ぎ達はラティウス殿が倒されました」
「そうか。街中の追い剥ぎ程度に苦戦するような実力じゃないからな、当然だ」
「自画自賛ですかな」
「最近、手合わせしたおかげで実際の実力が分かってるからだ」
「ほほ、そうですか」
からかうようにアントルが笑う。
「本当だからな」
「分かっております」
「……まあいいさ。安全になったなら、二人を降ろそう」
馬車の客室から外に出ると、追い剥ぎ達を倒したラティウスが地面に倒れている追い剥ぎの一人の胸ぐらを掴んでいるのが見えた。
「おい、気を失ってるんじゃない! 二人をどこに連れて行ったのか答えろ!」
完全に追い剥ぎ達を誘拐犯と勘違いしているようだ。ラティウスはクローセさん達が行方不明になって、冷静さを失っている。若いゆえに仕方ない部分もあるが、自分自身の若さゆえのみっともない部分を見せつけられて、俺はもどかしい気持ちになる。
「君、落ち着くんだ」
「誰だ、お前は!」
興奮状態のラティウスは追い剥ぎを掴んだまま、俺を睨んでくる。
「怒鳴るな。深呼吸を一度することだな。話はそれからだ」
「お前も怪しいな。顔を隠している。馬車が襲われてると思ったが、仲間内で話をしているところだったのか?」
「襲われていたのは事実だ。助けてくれてありがとう。感謝する」
礼を述べてみたが、俺を睨むラティウスの眼力は変わらず強いままだ。
「疑いたくなる気持ちは分かる。分かるが……落ち着け。君に託したい人達がいるんだ」
「託したい人?」
「君が探している人達だ」