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ズル

 エーブの剣が俺の左腕を切断する寸前で弾き飛ばされる。



「っ!?」



 驚きで動きが止まったエーブに体当たりをするようにして、俺は剣を突き刺した。腹部から背中まで貫通する一撃を受けたエーブは口から血を吐き出す。



「何を……した」



 口から血を吹き出しながら、エーブは言葉を吐く。俺は剣を引き抜くと同時に距離を取った後、剣に付いた血とエーブが口と腹部から溢れ出させている血の量を見て、致命傷を与えることが出来たと確信する。


 エーブは血と共に力が抜けていく体を支えようと、壁に寄りかかった。



「あの、一瞬で……魔法は、間に合わない……はず」


「俺が魔法を使ったことは分かったのか。さすがだよ」



 俺はエーブの剣を風魔法『コム・ウィンドウ』で弾き飛ばした。本来なら魔法を撃つ瞬間、一瞬の間が必要のため、あの距離ではエーブの剣が先に俺の左腕を切り落とすはずだった。



「十数年後だ。ある天才的な宮廷魔法使いが従来の魔法の術式よりも効率的で且つ、高速で魔法を放つことが出来る魔法の術式を生み出す。ズルして悪いが、片腕を失うわけにはいかなかったので未来の技術を使わせてもらった」


「何を……言って、る……だ」



 最後まで疑問を口にすると、エーブの体から力が抜けて、床に倒れた。遺体となったエーブの体からは血が大量に流れ出しており、床を侵食していく。



「本当ならエーブ、あんたの勝ちだった。後になって言われても、しょうがないだろうけどな」



 未来で天才的な宮廷魔法使いとなったトルテが発明した魔法の術式は、ほとんど間を作ることなく、魔法を行使出来る。誰かに、今しがた俺が使った魔法の術式を解明された場合、将来、トルテが得られるはずの栄光を奪ってしまうことになるので、極力使うつもりはなかったのだが思わず使ってしまった。



「強敵だった。叶うなら剣の腕だけであんたに勝ちたかったよ」



 剣士としての後悔は言葉にした後、剣に残っていたエーブの血と共に剣で振り払った。


 個人的な感傷に浸っていられる場合ではない。剣戟の音が地下内に響き、誰かがここへ来てしまうかもしれない。その前にクローセさん達と共に脱出しなくてはいけない。

 エーブの遺体から鍵を取り出して、クローセさん達が捕まっている扉の鍵を開ける。



「待たせた。逃げるぞ」


「大きな音がしてましたけど……大丈夫なんですか?」


「正直、大丈夫じゃないが……君達が逃げるくらいまでは持つさ。ああっと、この部屋を出る前に注意だ。床は見ないほうが良い。特に妹さんはな。もし見てしまっても、騒がないでくれ」



 エーブの遺体を見ても、動揺しないように心構えをしてもらう。完全に動揺するなというのは無理だろうが、叫ぶことくらいは耐えてくれるはずだと祈る。

 

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