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理由2

「短い任期の私が何故、貴族生徒、平民生徒の区別を無くして学校内を混乱させているかの理由はな……」



 アマンディーヌは意味深に言葉を貯める。



「この場を作るためだ」


「は?」



 本日二度目の思考停止だ。



「私に挑み、私が認める若い人材を見つけたかったというが理由だ」


「理由を聞いても理解出来なかったのですが……普通に授業の成績などで見つけるという方法では駄目だったのですか」


「教師の言う事を良く聞き、教科書の内容をよく理解して実戦する優等生は私の見つけたい人材ではない」


「……こちらの二人はともかく、私はそちら側の優等生だと自覚しています」


「謙遜するな、フォレノワール。今回の件で私が働きを一番認めているのは君だ。君は教科書通りの優等生では無い」


「その認められ方は嬉しくはありません」


「残念だ。素直に受け取ってほしかったよ。ともかく、私は君等を探したくて今回の一件を考えたわけだよ」



 迷惑すぎる話だと口から出そうだった。

 横に座るトルテも同じことを言いたそうな表情を浮かべている。



「見つけて、その後はどうするつもりだったんですか?」



 ラティウスが疑問を口にした。

 確かに人材を見つけたかったということは、見つけて何かをさせるためだろう。

 学生である俺達に何をさせようとしているのか……聞かなくてはいけない。



「来月、君達をルーネウス帝国へ連れて行く」


「帝国!? 連れて行く!?」



 何度目ともなる驚きの発言に声が大きくなる。



「いちいち驚くな。順に説明をする」


 

 落ち着くようにとアマンディーヌに手でなだめられてしまった。



「隣国であるルーネウス帝国とは五年前から休戦していることは知っているな」


「国の者として当然です」



 俺達が住むアンスバイン王国とルーネウス帝国は長年に渡って戦争をしている。

 期間としては百年以上だ。

 しかし、百年間ずっと戦争をしているわけではなく、短くて数カ月、長くても二年ほどの戦争を行った後、休戦となり、平和な期間が五年から十年ほど設けられるようになっている。

 休戦の理由は互いに長期戦争するだけの体力が無かったり、飢饉や内政状態により戦争どころではなかったりと色々だ。

 戦争で奪い合う領土は一時期、ルーネウス帝国に大きく奪われた時期もあったが、近年では大部分を取り返すことが出来ている。

 一進一退が続いている状態だ。



「王国と帝国との間で休戦時に幾つか取り決めがなされている。内容はお互いに攻め込まないだの、互いの領土内の商人の往来についてなど様々だ」


「その辺りも知っています。賠償金も貰っていると。今回は王国側に有利な休戦条約でしたね」


「ほとんど勝ち戦だったからな。このまま続けば帝国の首都まで行けるのではという勢いがあった。結局は取られた領土を取り戻したくらいで休戦になったな」


「アマンディーヌ校長も参加されていたんですね」


「大活躍だったぞ。おかげで近衛騎士団へ入る資格を得たからな」



 アマンディーヌと相対した帝国の兵士には敵ながら同情してしまう。自然の暴威と出会ったようなものだっただろう。



「私の活躍については別の機会に話すとしてだ。来月、帝国の首都で外相会談が行われる。半年に一度行われている定期的な会談だ。表向きは休戦時の取り決めが守られているかの確認となっているが、実際は互いの国の状況がどうなっているのかの探り合いだ。隙あらば弱みを見つけて、突いていこうと腹黒い話し合いだよ」


「外交として重要な話し合いの場でしょう。なぜそのような場所に私達を連れて行くのですか。学生の身分では不釣り合いです」


「不釣り合いと言うなら私もだ。卓上の話し合いは退屈だし、話術、交渉については実力不足だ。だというに、一緒に来るようにと要請されてしまった。王命ゆえに断ることは出来ない」


「王命……。目的は何です? アマンディーヌ校長は王国最優の武人です。あなたを話し合いの場に同席させるというのは威嚇目的ですか?」


「察しが良いな、フォレノワール。良すぎるぞ。学生の発想ではない。家の教育か?」


「……いずれ国を背負う家の者として当然の教育を受けているだけですよ」



 本当はそんな教育は受けていない。

 今の俺の考えは前世での経験があってだ。国王として、それなりに外交という修羅場は潜り抜けてきた経験だ。



「フォレノワール公爵家は将来安泰かもしれないな。おっと、話を戻そう。威嚇目的と言ったな。そのとおりだ。私が同行する目的は威嚇だよ。先程も自画自賛したが、先の戦争で私は活躍したからな。帝国内では仇敵として名が知れている。威嚇目的として私以上の適任はいない」


「次の謎が出てきます。威嚇目的です。下手をすれば戦争の火種になりかねません」


「逆だ。この威嚇は戦争をさせないためのモノだ。ふふ、だいぶ込み入った話になっているが……ラティウス君とトルテ君は話に付いてこれているか?」


「私は大丈夫です。でも、こっちはもう頭が茹で上がってます」


「うぅぅ……」



 トルテの言う通り、ラティウスからは苦しそうなうめき声が聞こえてきていた。



「一気に話しすぎたな。小休憩をしよう。お茶を飲みながら話を整理するといい」 


 

 アマンディーヌに言われて自分が喉が乾いていることに気づく。

 注がれた紅茶を飲むと、ミントが入っていたようで清涼感が体中を流れた。

 色々と重く考え込んでいた今の状況でこのすっきりとした風味は気持ちを軽くしてくれる。

 まさかここまで考えてミントの入った紅茶を用意したのだとしたら、アマンディーヌは交渉ごとでも侮られない実力があることになる。

 実力不足と言っていたが、謙遜しているだけではないか。



「苦手な味」



 素直すぎるラティウスの感想もまた余計な緊張感を解いてくれる。

 そういえば若い頃はミントのような清涼感のある味が苦手だったのを思い出す。いつから好むようになったのか。歳をとって、濃い味付けのモノが苦手になってからかもしれないと考えだすと、少し落ち込んでしまった。

 

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