骨身にしみる
前話の最後で
エーブが生命の恩人かもと記載していたのは修正。
どう考えてもこの場で、その考えはないだろうと
だとしても、この場でエーブを倒さなくてはいけないことには変わらない。
「コム・ウィンドっ!」
剣を持っていない左手をエーブの方に向けて、魔法による風の弾丸を放った。
不意を付いた風の弾丸はエーブの剣の一振りによって、かき消されてしまう。
「魔法も使うよな。ここまで一人で乗り込んでくるくらいだ。剣の腕だけでとは考えにくい。だが、この地下空間じゃ、使える魔法は限られるだろ」
エーブの指摘する通りだ。
この地下では破壊力の大きい魔法や激しい炎を起こすような魔法は自分自身にも被害を及ぶ可能性があるので使うことができない。コム・ウィンドのような比較的威力の小さい魔法を使うのが精一杯だ。トルテのように魔法の才能が十分にあれば、威力の高い魔法であっても、影響範囲を限定させることで使用することも出来るだろう。
「これならどうだっ! クライム、っ!?」
「好き放題、魔法を打たせるつもりはないぞ」
火の玉を飛ばす魔法である『クライム・ファイヤ』を牽制で放とうとしたが、魔力を貯めるための一瞬の間で、エーブが距離を詰めてくる。突き出された剣を避けるために、魔法を中断して剣で防御をする。
「威力が低くても、面倒は面倒だからな。素直に剣でやりあおうじゃないか」
「断るっ!」
剣だけで戦うことは嫌ではないが、この場はクローセさん達を助け出すことが第一だ。エーブの提案を飲むわけにはいかない。
「寂しいことをいうなよ」
放たれたエーブの蹴りが俺の腹部に突き刺さる。威力は大したことはなかったが、体勢が崩れてしまい、エーブの追撃に対する防御が間に合わない。
横薙ぎに振るわれたエーブの剣が俺の胴体を一閃する。
熱を帯びた痛みに耐えて俺は剣を振るい、エーブを遠ざける。
「おかしい……。斬った感触に違和感がある」
「……だろうな」
しぼりだすように俺は声を出す。
アントルが用意してくれたスーツの防刃性能のおかげで命拾いをした。アントルの言う通り、斬撃は打撃となったが、威力としては骨身を砕きかねないモノだった。
「特殊な防具か。鎧でもない、そんな薄いスーツで俺の剣を防ぐほどの性能とは驚きだ。ますます、君の正体が気になった。俺の攻撃をある程度防ぐ程度にはある剣技の実力、そして魔法。若さに似合わぬ剣を振るう覚悟、貴族でも容易には持っていないだろうと思われる高い防御のスーツ。誰なんだ? 背後に相当有力な存在がいることは間違いないだろう。いや、君自身が有力な存在本人なのかな?」
エーブの冷静で鋭い推察に冷や汗をかく。エーブは剣技だけでなく、頭も十二分に切れるらしい。
厄介だ。
このまま顔を見られなくても、声や体格などから俺がグリオットであることを感づかれる可能性すらある。
グリオットであることがバレた場合、エーブは一度この場を退散してしまうかもしれない。それはまずい。
エーブに俺の正体がバレる前に勝負を付ける必要が出てきてしまった。