妄執?
「おや、使い魔のカラスがすでに部屋に居ましたか」
シュティがサイドデスクに居たダダルに気付く。
(俺様が小娘の盲信する悪魔本人だというのに使い魔扱いか。事実を教えてやろうか。どんな表情をするのか楽しみだ)
(やめろ。無用な騒動は起こすな)
念話で会話してダダルの行為を止めさせた。
「シュティ、一つ聞きたいんだが、他の里の者に俺が悪魔だということは話したのか?」
「いいえ、話しておりません」
「何故だ? 里の教えから考えると皆に話した方がいいのではないか」
俺としては話していないことに安堵している。
俺のことを悪魔だと勘違いする人間をこれ以上増やしたくはない。
だが、それはそれとして悪魔を信仰しているビーネン一族からすれば、実際は違うが俺という悪魔の存在は嬉しいはずだ。
シュティがそのことを里の人間に教えない理由が分からない。
「理由は話したところで信じてもらえないというのが一つ。里は悪魔様を信仰してはおりますが、その気持ちには個人差があります。中には存在を信じていない者もおりましょう。そんな中で私が悪魔様のことを話しても妄想として受け取れるのかせいぜいです」
「里の皆が盲信しているわけではないのか」
「加えてもう一つあります」
「なんだ?」
「悪魔様は私だけの悪魔様で在って欲しいのです」
目を細めて笑みを浮かべるシュティの姿に背筋がゾッとして、一瞬逃げ出したくなってしまった。
妄執、狂信、独占欲、束縛。
出来ることなら関わり合いになりたくない感情の表現が脳裏を走る。
「そ、そうなのか……」
「はい」
ようやく絞り出した言葉にシュティが礼儀正しく返事をした。
「あー、えっとだな。手を貸してほしいと頼まれたのだったな。何の仕事に手を貸してほしいと言われたんだ? 暗殺を仕事にしているビーネン一族だ。誰かを狙っていたんだろう?」
「狙っているのはアマンディーヌと言っておりました」
「なっ!?」
アマンディーヌは話題の中心になりすぎではないか。ここ最近の出来事は全て彼女中心に動いているぞ。
士官学校のことに関してはアマンディーヌが主な原因ではあるので分かる。だが、それ以外については何故だ。
アマンディーヌを今、暗殺して誰に得がある?
あまり得や利益を考えずに国王派であるアマンディーヌを亡き者にすることによる影響を狙っているだけか。
だとしても浅はかすぎる。
行動としては前回の王女暗殺と同等の愚行だ。