ぷち侵入者
「過小評価だったかはお前が戦えば正確に分かるだろうさ」
「お前の話を聞いて怯えてきたよ」
「そんな気弱な性格ではあるまい。おまえとて私が知っている人間では十分に強い」
「過大評価だが嬉しい評価ではある。賛辞を受け取っておく」
「アマンディーヌに勝てる算段はあるのか?」
「今回の戦いの目的はアマンディーヌ校長に私達の意見を認めさせることだ。剣で打ち負かすことではない。その意味で勝ちの算段はある。勝ちの確率が良くて一割り程度の算段だ」
「相手が相手だけに十分すぎる確率だな。おや? 侵入者だぞ。数は三だ」
「侵入者!?」
ベッド脇に置いている剣を手にして戦闘態勢に入る。
この屋敷への侵入者ということは俺を狙っているはずだ。
狙われる理由についてはフォレノワール家に恨みを持つどこかの貴族の差し金というのが一番最初に頭に浮かんだ。
直近で思いつく対象はビーネン子爵だ。
俺の言いなりになるのが嫌で命を狙ってきたのかもしれない。
王女襲撃の件で脅したとはいえ、情報を持つ俺が居なくなれば怯えることは無くなる。
「屋根の上で動きを止めたな。誰かと相対しているようだぞ。あれは最近来た小娘だな」
「シュティか。なぜ分かる?」
「透視魔法と遠視魔法だ。お前もこれくらいは使えるようになっておくといい。便利だぞ」
「時間があれば習うとするさ。シュティは迎撃しているのか」
戦っているのであれば剣戟の音くらいは聞こえるはずと警戒しながら窓際に移動する。
「いや、向かい合って何か話し合っている。何か交渉していたようだが……決裂したらしい。小娘が武器を構えたのを見て、相手の連中は去っていったぞ」
「話の内容は聞けたか?」
「聴覚強化の魔法を使ったが、それでも聞こえなかった。かなり小声で話をしていたようだぞ」
「俺を狙ってきたにしては退却が潔すぎる。目当てはシュティか?」
「小娘がこちらに来るぞ。お前に何か伝えたいんじゃないのか」
「何!?」
ダダルの報告に驚いていると窓の外にシュティが姿を表した。窓枠を片手で掴みながら、ぶら下がっている。
「起きておりましたか、悪魔様。驚きです」
二人だけなのでシュティは俺を悪魔様呼びになっている。
「侵入者が来たことに気付いて起きたところだ」
嘘を話しながら窓を開けてシュティを部屋の中に入れた。
「彼らの気配に気付くとはさすがです」
「彼ら……親しそうだな。知り合いか?」
「はい、同じ里の者達です。他所で仕事をしていたようでした」
「仕事に失敗しているシュティを殺しに来たわけではないんだな」
「私も最初はそう思ったのですが違いました。手を貸してほしいと頼まれました。見返りとして仕事に失敗した件は不問にすると」
「頼まれたのに断ったのか」
「お気付きですか。その通りお断りしました。今の私は悪魔様に仕える身。あなた様以外の命令は受けませんので」
「それで良かったのか? 手を貸していればお前は里へ戻れたかもしれないのに」
「以前もお伝えしましたが、私は里へ戻る気はありません。悪魔様の側にいることが今の私の最上級の幸せなのです」
盲信すぎるシュティの気持ちにどう対処すればいいのか。
受け入れすぎるのもシュティの将来にとって悪い結果になると考えて頭を悩ませている。