帰宅、そして
「ラティウス、早く行くわよ」
グリオットの屋敷での訓練が終わり、俺とトルテは馬車で学生寮まで送り届けてもらった。
「はいはい、今行くって。しかし、高い馬車はソファは柔らかく過ぎて、腰が痛くなるな」
「そう? 私は座り心地良かったけど」
「尻がデカいからか?」
「そこを動くな。頭ぶち抜いやるわ」
殺意の籠もった低い声とともに俺の顔の真横を風魔法「コム・ウィンド」の弾丸が掠めていった。鈍い音が後方でしたので、ゆっくりと振り返ると学生寮のレンガ造りの門に穴が空いていた。
「じょ、ジョーダンだよ」
トルテと二人になると軽口を言ってしまって、トルテを怒らせてしまう行動は我ながら自制したい。が、どうにも昔からずっと一緒にいるだけに気が抜けて、口が本当に軽くなる。そのせいで思っていることがすぐに口から出てしまう。
トルテは諦めたような表情でため息を付いた後、学生寮へ向かって歩き出した。
俺は早足で歩き、トルテの横に並ぶ。
「……あんたってフォレノワール公爵家と何か関係ある? 血縁とか」
「あるわけないだろ。父さんも母さんも貴族とは関係ない。爺さんとかも商人だったり、農家だったりだ」
「だよね。私も聞いたことなかったし」
「急にどうしたんだ? さっきも俺とグリオットの野郎が似てるとか言ってたし」
「見たままの感想よ。最近、あんたとグリオットが似てるって感じることが多いのよね」
「はぁぁ!?」
心外すぎて変な声を出してしまう。
「あんたは思ったことないの?」
「ねぇよ。あいつと似てるなんて思われるだけで寒気だわ」
「そうよね。嫌なヤツなのは変わりないし」
「そうだそうだ。何よりクローセさんを実家の食堂から連れ去りやがって」
「クローセさんの件はクローセさん自身も家族も納得してたじゃない。無理やりでもなかったみたいだしさ」
「そうは聞いてるけどよ。言わされてるだけかもしれないだろ」
「あの人達は本当に困っていたら、私達には相談してるわ。相談に乗れる程度には信頼されてるって自負はある」
「それは俺もだけどさ」
「なら、クローセさんの件で私達がこれ以上口は出せない。この話は前にもしたでしょ。まだ未練たらたら?」
「そう簡単に納得出来るかよ」
食堂に行けば、いつも出迎えてくれたクローセさんの笑顔が見れなくなったのはグリオットのせいだ。
俺の安らぎだったのに。
「……グリオットがなんか変わったのはその頃よね。思い返してみると私よりもあんたが先にグリオットが変わったって気付いていたんじゃない?」
「俺が? なんで?」
「あの頃、グリオットと剣の授業で戦ったことあったでしょ」
「……あったか?」
「思い出しなさい」
トルテに言われて当時のことを思い返してみる。
休み明けに戦ったグリオットは入学当初に戦った時とは剣の腕前が違ったのを思い出した。
同じくらいの剣の腕前の相手と戦うのは初めてだったこともあり、素直に嬉しく感じていた。